加速する若手の海外移籍――現役Jクラブ指揮官の見解は? コロナ禍で重要性増す移籍金に、戦力のマネジメント…

2021年02月08日 元川悦子

『選手を育ててしっかりと高い金額で売る』というビジネスが成り立たないと地方クラブはやっていけない

冬の移籍市場でシント=トロイデンに移籍した橋岡。クラブに在籍する12人目の日本人選手となった。(C) SOCCER DIGEST

 1月末の欧州移籍期限終了間際に香川真司(PAOK)、本田圭佑(ポルティモネンセ)、南野拓実(サウサンプトン)ら日本人選手の駆け込み移籍が相次いだ。

 浦和レッズからベルギー1部のシント=トロイデン(STVV)へレンタル移籍した橋岡大樹もそのひとり。4日に会見した彼は「前々から海外に挑戦したい気持ちが強かった。自分の強みである対人、ヘディング、アグレッシブさがどこまで通用するかが楽しみ」と意気込みを口にした。

 彼の獲得に携わった立石敬之CEOは「私たちSTVVは日本代表の中心選手を育成すべく欧州で活動しています。プロジェクトは3年目を迎えましたが、橋岡は12人目の日本人。過去に代表の中心になった選手以上のタレントだと確信している」と強調していた。このSTVVはDMM.comが買収したクラブであり、本田が赴いたポルティモネンセもブラジル人仲介人のコンスタンチン・テオ氏がオーナーを務めるクラブ。いずれも日系で日本人選手の欧州の入口になりやすい。そういう存在も昨今の若手世代の欧州移籍急増を後押ししているのだろう。

 しかしながら、選手を送り出すJクラブ側は万々歳というわけではない。アカデミー、あるいは高卒・大卒新人を手塩にかけて育てながら、ほとんど移籍金を取れないまま流出してしまうという例が少なくないからだ。

 ベガルタ仙台時代に西村拓真のCSKAモスクワ移籍に直面した経験を持つレノファ山口FCの渡辺晋監督はこのような発言をしていた。

「特にアカデミーからトップに上がってきた選手、高卒の選手には『必ずクラブに金を置いていけ。タダで出て行っちゃダメだ』と言っています。『選手を育ててしっかりと高い金額で売る』というビジネスが成り立たないと地方クラブはやっていけない。海外であれば、なおさら。それが日本サッカー界にとって当たり前にならないと、もう一段階上のステップには行けないと思います」

 実際、山口にも16歳11か月11日のJ2最年少出場記録を持つ河野孝汰のような光るタレントがいる。彼はまだ高校2年生だが、今季のパフォーマンス次第では今夏、あるいは1年後の海外移籍というのは十分可能性がある。

「孝汰には『海外移籍したからクラブハウスが立派になった』とか『ピッチがもう1面できました』とか社長やGMに言ってもらえるような形で行かないとダメと本人にも伝えています。ゼロ円なんてあってはならない。移籍金を残すのはマストだと思います」

 渡辺監督はこう強調したが、こうした現実をJリーグに携わる全関係者が再認識する必要があるのかもしれない。選手と仲介人にとってはゼロ円の方がより格上の移籍先を見出せるのだろうが、それでJクラブが経営破綻したら元も子もない。ましてや今はコロナ禍。浦和レッズや名古屋グランパスといった集客力の高いクラブでさえ、2020年シーズンは10億円前後の赤字を計上する苦境に瀕している。だからこそ、もっと移籍金に対してはシビアになるべきだ。

【J1】各チームの2021年シーズン予想フォーメーション

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