インカム駆使にCBマンマーク――11年ぶりの優勝を掴んだ山梨学院の徹底的な準備と、型にハマらない策【選手権】

2021年01月12日 松尾祐希

世代別代表や高卒でプロに行くタレントはいないが…

見事に11年ぶり2度目の選手権制覇を成し遂げた山梨学院。写真:徳原隆元

 決して番狂わせではない。緻密な分析で策を練り、周到な準備で選手にはタスクを実行させる。完璧な試合運びではなかったかもしれない。だが、長谷川大監督が常日頃から口にしている「相手の良さと自分たちの良さを組み合わせていく」スタイルで勝利を呼び込んだ。

 準々決勝でJ入団内定選手を4人擁する昌平、準決勝では昨冬4強の帝京長岡を撃破して迎えたファイナル。下馬評は青森山田有利の声が多かった。そこで講じた策は今までと同じように相手の武器を封じること。青森山田の特徴を消すべく、キーマンにマンマークを付けた。しかし、Wエースの松木玖生(2年)と安斎颯馬(3年)に対してではない。ターゲットは正確なキックが持ち味のCB藤原優大(3年/浦和レッズ入団内定)で、2トップの一角に入る久保壮輝(3年)を張り付かせたのだ。長谷川監督は狙いをこう説明する。

「CBの藤原くんが出発点だったので、彼にマンマークをつけることを考えました。大学を指導していたときに早稲田大と戦った際、良いビルドアップをする選手がいたので、そこを抑えるために取ったことがある策。これはあんまり思い付かない策だと思ったので、FWをCBにつけて、10対10の局面にしようと考えたんです」

 これで藤原のロングフィードは封じられ、青森山田の武器であるピッチを広く使うダイナミックな攻撃を押さえ込んだ。両SBやサイドハーフに個人で突破される場面もあったが、守備陣が左右に揺さぶられる場面は激減。スライドやチャレンジ&カバーをスムーズに実行しながら、速攻から高い位置を取るSBやCBの脇を狙う形で相手の急所を狙い続けた。
 
 思惑通りのショートカウンターから早い段階で先制した一方で、後半は相手のロングスローと個人技で2失点を喫した。しかし、対策は効果覿面。何本か通されたとはいえ、"藤原を消した"ことが勝利に引き寄せるポイントになったのは間違いない。実際に藤原もやりにくさを感じていたという。

「CBにマークがついてきて、どうすればいいか頭が回らなかった、コーチにアドバイスを受けてプレーができるようになったけど、プロに行くなら自分で考えないといけないし、もっと利口なプレーヤーにならないといけないなと感じた」

 CBへのマンマーク以外にも工夫は随所に見られた。そのひとつがインカムを用いた臨機応変な対応だ。大会を通じて取り組んできた策について、長谷川監督は言う。

「攻撃時におけるセットプレーの分析をしてもらっていました。守備のセットプレーに関してはベンチに入っているコーチが行なうけど、攻撃に関しては人数制限もあってベンチで対応できない。なので、インカムを使って(スタンドから)指示を受けていたんです。青森山田の守備の配置を見た上でアドバイスを受け、その都度話し合いながら僕から選手に伝えていました。選手の疲労などの状況に応じ、セットプレーのパターンを変えていきたいと思っていたので、パターンや入り方を変えていくことはできていて有効だったと思います」

 世代別代表や高卒でプロに行くタレントはいない。だが、個性を引き出しながら、徹底的に相手を分析してゲームに挑む。試合中も状況を見ながら策を打ち続ける。重箱の隅をつつく様な準備と型にハマらない策。そうした取り組みがなければ、11年ぶり2度目の選手権制覇は成し遂げられなかった。

取材・文●松尾祐希(フリーライター)
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