川崎番記者が知るバンディエラの素顔――引退を決めた35歳の中村憲剛が明かしていた赤裸々な胸の内

2020年11月02日 いしかわ ごう

「毎回試合の日は、嫌だな、早く終わってくれないかな、早く始まってほしい……と思う」

引退を決意したという2015年シーズンの中村憲剛。この翌年にMVPを獲得した中村は、リーグ2連覇、ルヴァン杯制覇と次々にタイトルを手にしていく。写真:徳原隆元

 11月1日、川崎フロンターレの中村憲剛が今季限りでの引退を発表した。18年にわたり、川崎一筋のプロ生活を送ってきたチームのシンボルは、一体どのような男なのか。長きに渡って取材を続けてきた番記者が紐解く。

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 あれは2016年5月のこと。

『サッカーダイジェスト』誌でのクラブ特集企画として、選手自身に性格を分析してもらうという簡単なアンケート取材を行なった時のことだ。

 それなりに長く取材させてもらっている間柄だが、プレーではなく、自分自身の性格を語ってもらうというのは、ちょっと面白そうな感じがした。尋ねてみると中村憲剛の回答は「楽天的」というものだった。

「あまり物事をネガティブに捉えないかな。昔から、悔しいことがあっても次、次と気持ちを切り替えるタイプで、あんまりふさぎ込まない子供だったから。明るいし、話好きだし」と言い、「総じて、なんとかなるさ精神がある」と朗らかに笑っていたのである。

 奇しくも、この年の3月末には第三子(次女)である里衣那(りいな)ちゃんが生まれたばかり。出産に至るまで加奈子夫人が大変だったことは彼自身が打ち明けているが、その里衣那ちゃんの誕生に関しても「きっと無事に生まれてくるだろうと信じていた」と終始ポジティブなスタンスを貫いていたことを挙げていた。

 そこから雑談のような会話になったのだが、そんな楽天的な彼に聞いてみようと思った。

 当時の中村憲剛は35歳。プロキャリア14年目で、選手としても晩年に差し掛かっていると思われても仕方がない年齢だが、それでもJ1リーグの第一線で活躍し続けているトッププレーヤーだった。

 でも、そうした勝負の世界で戦い続ける日常が、時に苦しいと思ったことはないのだろうか。思わず「戦い続けることって、しんどくないですか?」と尋ねていた。

 彼は「いや、しんどい人生だと思うよ」と微笑み、胸の内をこんな風に吐露し始めた。

「毎回、試合の日は、嫌だな、早く終わってくれないかな、早く始まってほしい……と思うよ。勝つこともそうだし、負けることもそうだし、プレーの良し悪しも含めて、逃げ出したくなることもある。でも、ピッチに入ったら、そんなのおかまいなしなんだけど」

【PHOTO】川崎のバンディエラ、中村憲剛のデビューイヤーから現在を振り返る!2003-2020

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