【識者に訊く】日本人選手にとって最適な海外移籍の形は?「メッシでさえ苦境に立たされる。重要なのは…」

2020年10月27日 後藤健生

それぞれが最も成長できる環境に身を置くべき

マルセイユに移籍した長友が評価されるのはコミュニケーション能力。海外生活では鍵になる才能だ。(C)Getty Images

 今年8月、現役生活に別れを告げた内田篤人は、その引退会見で海外志向の強い若手に向けてこんな言葉を残していた。「海外に行きたいのは分かりますけど、チームで何かをやってから行けばいいのにな、とは思います」。日本人に最適な海外移籍の形とは? サッカージャーナリストの後藤健生氏に改めて検証してもらった。(※『サッカーダイジェスト9月24日号(9月10日発売)』より転載)

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 国内・海外を問わず、移籍というのは極めて難しい選択だ。その成否によって、選手生命に大きな影響を及ぼしかねない。したがって、慎重かつ大胆に決断しなければならないのだ。

 もちろん、それはプロのアスリートに限った話ではない。会社勤めの人間でも、職場環境や上司との巡り合わせひとつで人生を左右されることもあるだろう。

 あるいは、ちょっとした派閥力学のバランスによって、思いがけず内閣総理大臣の椅子が転がり込んでくる政治家もいれば、どんなに頑張ってもその座に手が届かない政治家もいる(特定の人物を念頭に置いているわけではありません)。

 ただ、アスリートの選手生命というのは、会社員や政治家の人生に比べてあまりにも短い。そしてサッカー選手の場合、その重大な決断を、まだ人生経験の少ない20歳前後で迫られるのだ。

 さて、「海外移籍はJリーグでの経験を十分に積んでからにするべきか」というお題である。誠につまらない回答で申し訳ないが、「一概には言えない」としか言いようがない。

 選手の成長曲線というのは、人それぞれだ。10代のうちに急速に成長し、20歳を過ぎた頃にはある程度完成してしまう者もいれば、20代後半になって"何か"を掴み、飛躍を遂げる大器晩成型もいる。

 性格的にも、いろいろだ。
 
 厳しい競争の中で揉まれることで成長するタイプもいるだろうし、逆に安定して出場機会を得られるような環境でないと、プレッシャーに押し潰されてしまう選手もいる。

「どちらが良いか」という問題ではない。様々なタイプの人間がいるのだから、それぞれが最も成長できる環境に身を置くべきなのだ。

 また、特に海外移籍の場合は、現地での生活に順応できるか否かという問題もある。

 外国語が喋れるかどうかではない。誰に対しても臆さず相手の懐に入ってコミュニケーションが取れる選手であれば、どんな環境にもすぐに馴染んで力を発揮できるだろう。しかし、社交性に乏しくシャイな人間では順応に時間がかかり、現地での生活についていけないかもしれない。

 最近、マルセイユへの入団が決まった長友佑都について、FC東京時代に指導した城福浩監督がこんなことを言っていた。

「彼はセールスマンをやらせたら絶対に成功しただろう」

 それほどコミュニケーション能力に秀でているということだ。だからビッグクラブに移籍しても、すんなり輪の中に入っていけるのだろう。
 

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