「このクラブが動けば価値が上がる」セビージャの優れたスカウティング&交渉力【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020年07月29日 小宮良之

モンチを中心にしたスカウト集団は欧州屈指

目利きに優れたセビージャは久保の獲得にも動いているという。(C) Getty Images

 どうすれば、サッカークラブは強くなるのか?

 クラブとして、やるべき優先順位は明らかだろう。

 クラブ補強の条件は、まずは強化が「目利き」であり、交渉に優れているという点にある。単純に、良い素材を選び抜いて戦力にできれば、必然的に優位に立てる。一方、そこで躓くと、スタートの時点で後れを取ることになるのだ。

 ラ・リーガでは、セビージャが優れたスカウティングと交渉力で有名である。

「セビージャが触手を伸ばしたら、その時点で選手の価値が高騰する」

 そう言われるほどに、セビージャの選手分析は定評があるのだ。

 2019-20シーズンも、いずれも1年目のDFジュル・クンデ、ジエゴ・カルロス、MFジョアン・ジョルダン、フェルナンドが、各ポジションでリーグベストイレブンに近い働きを見せている。それぞれ好選手だったが、ネームバリューは高いとは言えず、一気に花開いた印象である。

 アルゼンチン代表のルーカス・オカンポスは相応の肩書をひっさげてやって来たが、1シーズンでその価値は跳ね上がっている。また、2年目のチェコ代表GKトマシュ・ヴァツリークは、今やリーガ最高GKたちと肩を並べるほどだ。

 慧眼の持ち主として有名なモンチ(2000年にセビージャのスポーツディレクターに就任し、2017年4月から2019年3月まではイタリア、ASローマのスポーツディレクターだったが、再び戻ってきた)を中心にしたスカウト集団は、欧州屈指。クラブの栄光を担ってきた。選手に合わせ、力を引き出してくれる監督も吟味しているのだ。

 Jリーグでも、鹿島アントラーズ、川崎フロンターレは素晴らしいスカウティングと交渉力を持っている。それ故に、たとえ一時的にチームの成績が沈み込んでも、どこかで帳尻を合わせ、常にタイトルを争うことができているのだろう。人材の分厚さで、周りに差をつけている。

「そのチームの戦いに合うか」

 それはスカウティングの基本の一つだが、好選手は環境にも適応できる。適応し、成長できない選手は、結局は停滞する。つまり、強化は適応力を見極められるか。その数字には出ない能力を、感覚的にはじき出せる必要があるのだ。
 

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