【柏】江坂任は代えがきかない存在か。理由となる“稀少なスキル”とは…

2020年07月27日 志水麗鑑(サッカーダイジェスト)

時が止まったような感覚になり、グッと引き込まれて

好調を続ける江坂。今季は2ゴール・3アシストを決めている。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 時間が止まったような感覚になり、グッと引き込まれて見入る。江坂任のプレーを見ると、そうなるのはなぜだろうか。

 5-1で快勝した仙台戦後、先制点を決めた仲間隼斗が「本当に良いアシストだった」と江坂への感謝を口にした。

「任はいつでもボールを出せるというか、両足で出せて、タイミングが相手からしたら読みづらいと思っている。自分のランニングに任が合わせてくれた感じなので、相手からしたら嫌なパス。あとはGKのいないところにシュートを打つだけだった」

 20分、ハーフウェイライン付近でオルンガの落としを受けた江坂は、ペナルティエリア手前まで左右に首を振りながら持ち込むと、わずかにドリブルスピードを落とす。小さなキックフェイントも織り交ぜつつ、細かいステップを踏んだ。すると対峙した相手DFはほぼ動けなくなったため、この瞬間に筆者は時が止まったような感覚になり、グッと引き込まれて見入った。

 対峙した相手DFがほぼ動けなくなった理由は、仲間の言うとおり、いつでも左右どちらの足でもパスを出せて、タイミングが読めなかったからだろう。おそらく「何を仕掛けてくるか分からない」という心理状態に陥っていたのかもしれない。結局、江坂は相手DFふたりの間を射抜く浮き球のスルーパスで、仲間のゴールをアシストした。
 プロの世界になれば、テクニックがある選手はたくさんいる。柏では神谷優太やマテウス・サヴィオが江坂に匹敵するくらい技術が高く、トップ下にも適応できる。仙台戦で江坂が決めたアシストも、"スルーパスだけ"を切り取れば、たぶんふたりとも再現できるだろう。

 ただし、江坂のようにボールだけでなく、"時間"(あるいは間とも表現できる)も操れる選手は稀少だ。そのスキルはアシストだけでなく、攻撃でタメを作る時にも活かされている。しかも常に敵を引き付けてから味方にパスを出しているので、受け手に余裕が生まれる。

 江坂と同じこの駆け引きは、神谷とM・サヴィオからはあまり見られない。他クラブを見渡し、似たスキルがある選手として現役日本人Jリーガーでパッと思いつくのは、G大阪の遠藤保仁か。もしかしたら他にもいるかもしれないが、"稀少なスキル"がある選手はそう多くないはずだ。

 江坂の"稀少なスキル"が色濃く活きるようになったのは、昨季後半戦あたりからだった。敵をよく見て、相手の裏を突くことが戦術のモットーであるネルシーニョ監督の下で昨季からプレーを続けてきたおかげで、戦術眼に磨きがかかったように映る。つまり、いくらテクニックがあっても、インテリジェンスで戦術理解力が高くないと、出せる能力ではない。だから稀少価値が高い。

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