新連載【フットボール最前線】ピッチ上に革新をもたらすか――「最後の未開拓分野」セットプレーの可能性と限界

2015年02月20日 片野道郎

ゲームの中にあるもうひとつ別なゲーム。

 現代サッカーの「最新トレンド」に迫る新連載がスタート!
 
 第1回のテーマは、「セットプレー」。最後の未開拓分野と言われ、それだけにピッチ上に革新をもたらす可能性を秘めたセットプレーに焦点を合わせた。
 
――◆――◆――
 
 現代サッカーにおけるセットプレーの重要性が強調されるようになって久しい。
 
 試合の中で決まる得点のうち、平均して20~30パーセントはセットプレー(CK、FK、スローイン)からのゴール。しかも、試合が均衡した内容になればなるほど、セットプレーが勝敗を分ける度合いは高くなる。
 
 例えば、昨シーズンのチャンピオンズ・リーグ決勝。後半ロスタイムにセルヒオ・ラモスがCKを頭でねじ込んだ同点ゴールがなければ、レアル・マドリーが「デシマ(通算10度目の優勝)」を達成することはなかった。S・ラモスはバイエルンとの準決勝・第2レグでも、セットプレーから2得点を挙げて勝利を呼び込んでいる。
 
 しかし、サッカーの戦術がこれだけ緻密に研究され、数年ごとに新たなトレンドが生まれている中にあって、奇妙なことにセットプレーからの攻撃だけは、大きな発見や革新がないまま、それこそ何十年も同じようなやり方が繰り返されてきた感がある。
 
 セットプレーは、現代サッカーにおいて最後に残された可能性、いまだ切り開かれていない未踏の地だ、と言われ続けているにもかかわらず、ピッチ上のプレーに目に見える変化がないというのは、考えて見れば不可思議なことだ。
 
 実際には、革新への試みがなされていないわけではない。
 
 例えばイタリア・セリエAでは、フィオレンティーナのヴィンチェンツォ・モンテッラ監督が、2012-13シーズンにセットプレー専門コーチのジャンニ・ヴィオをスタッフに加え、年間38試合で挙げた72得点のうち、ほぼ3分の1にあたる23得点をセットプレーから決めるという結果を残した。
 
 ヴィオは、「セットプレーには年間15得点を挙げるストライカーと同じ価値がある」というモットーを掲げて、CK、FK、スローインといったシチュエーションごとに膨大な数のパターンを準備し、それを専門に指導するセットプレーのエキスパートだ。
 
 彼のセットプレー理論を簡単にまとめると次のようになる。
「セットプレーは試合の流れとは無関係に、プレーが止まった状況でゼロから組み立てることができる『ゲームの中にあるもうひとつの別なゲーム』であり、そこでは攻撃側が100パーセント主導権を握ってすべてを準備できるという優位に立つ。これを積極的に活用すれば、チームの得点力を20~30パーセント高めることが可能になる」
 
 ヴィオが用意しているセットプレーのパターンでは、全員がGKの前に立つ、ニアサイドやファーサイドに固まる、オフサイドポジションに並ぶといった、きわめて特殊な配置を取ることが多い。
 
 そして、キッカーがボールを蹴る直前にそれぞれが、あらかじめ決められた戦略的な動きを取ることで、マーカーを連れ出したりマークを混乱させたりして狙ったスペースを空け、そこにボールを送り込んで、フィニッシュを担当する特定のプレーヤーがフリーでボールに合わせる状況を作り出す。
 
 セットプレーの場合、こうした攻撃側の動きに対して、守備側は常に「後手に回る」形でしか対応できない。そのため攻撃側の全員が、正しいタイミングで的確な動きをして、キッカーが狙ったところにボールを送り込めば、かなりの確率で得点のチャンスが生まれる。
 
 12-13シーズンにフィオレンティーナがセットプレーから挙げたゴールの数は、ヴィオの理論とそれに基づくパターンの有効性を示すものだ。

次ページ違いを作り出すためには、練習に時間をかける必要がある。

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