【WSD編集長コラム】バロンドール候補のノミネート歴が一度もない!? 超ワールドクラスの痛快なラストダンスに期待

2020年07月04日 加藤紀幸(ワールドサッカーダイジェスト)

プレミアリーグに新風を吹き込んだ男。

シティの発展に大きく貢献したシルバだが、意外にもバロンドール候補のノミネート歴は一度もない。 (C)Getty Images

「え、本当に? 正当に評価しているのか?」

 思わず、そう呟いていた。「超ワールドクラス図鑑」(ワールドサッカーダイジェスト5月21日号)という特集の攻撃的MF編に掲載しようと、ある選手のバロンドール実績を調べていた時だ。

 この10年はほぼリオネル・メッシとクリスチアーノ・ロナウドが独占しているバロンドールの受賞歴がないことは分かっていたが、事前に発表される30人のノミネート(FIFAとの共同主催だった2010~15年は23人)には、少なくとも2度か3度は入っているだろうと、そう思い込んでいた。だが、なかったのだ。たったの一度も。

 その選手とは、マンチェスター・シティのダビド・シルバだ。

 まだ編集長でも副編集長でもなかった2000年代後半に、シティの担当を任せてもらった。以来、ずっとシティを追い続けている。08年のクラブ買収でUAEの王族が事実上のオーナーとなり、飛躍的な発展を遂げていくその過程を、担当として見続けられたのは幸運だったし、純粋に楽しかった。
 
 そして10年夏の入団以降、クラブのその発展にセルヒオ・アグエロやヴァンサン・コンパニとともに重要な貢献を果たしてきたのが、スペイン代表MFのシルバだ。

 11-12シーズンに成し遂げた44年ぶりのトップリーグ制覇も、史上初めて勝点を100の大台に乗せた17-18シーズンのプレミアリーグ優勝も、もっと言えば近年のシティの成功も、この小柄なマジシャンなしには成し得なかっただろう。
 
 バレンシアから渡ってきた当初、イングランドのメディアやサッカーファンはシルバに懐疑的だった。フィジカルが大きく物を言うプレミアの舞台で、173㎝・67kgのテクニシャンが戦い抜けるのかと。

 そうした声を、シルバは華麗なテクニックや芸術的なスルーパスでねじ伏せただけではない。イングランドでは当時まだ革新的だったシティのポゼッションサッカーを軌道に乗せ、そのスタイルの体現者であり続けた彼は、小柄なボールプレーヤーでもプレミアで活躍できる成功例として同タイプの選手に希望を与えると同時に、フィジカルを前面に押し出したゴール前での激しい攻防や肉弾戦を好み、その勝負こそがサッカーの醍醐味だと考えていたイングランドのファンに、新たな価値観を植えつけた。

 その意味でシルバは、「プレミアリーグに新風を吹き込んだ男」でもあるだろう。

次ページ芸術的だったダービーでのボレーアシスト。

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