湘南練習場に響いた怒声… 齊藤未月が語った同僚に掴みかかったワケと「本能」のプレー

2020年05月07日 佐藤亮太

昨季、崖っぷちの湘南で起きた一騒動

湘南のボランチとして存在感を高める齊藤。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 昨年11月19日のことだった。この頃、湘南ベルマーレは崖っぷちにあった。リーグは6連敗中。順位は16位。自動降格圏となる17位の松本山雅FCとは勝点1差と残留争い、待ったなし。さらに台風19号により馬入グラウンドが冠水。そのため、明日どこで練習が行なわれるのか、分からない、まさに三重苦にあった。

 そんななか、10月に就任した浮嶋敏監督は、湘南スタイルに再び息吹を吹き込もうとしていた。

 この日、全体練習は横浜市で実施。冷たい風のもと、練習開始。途中、選手がランニングをしていた、その時だった。

「やってんだろう!」

 怒声がピッチに響いた。声の主はMF齊藤未月だ。

 下部組織出身の齊藤は各世代別代表に選ばれ、延期となった東京五輪に出場するU-23日本代表の有力候補のひとり。湘南では16年にデビュー以来、J1・J2通算80試合出場。豊富な運動量を生かし、攻守の要として躍動する俊英だ。

 その齊藤がFW指宿洋史に掴みかかったのだ。振り払う指宿に齊藤は何度も食って掛かった。幸い、大ゲンカにはならなかったが、冷静沈着なイメージのある齊藤のむき出しの怒りに驚くとともに、芳しくないチーム状況が浮き彫りとなった。次節32節の相手が首位・FC東京戦とあって、チームがピリつくのも無理はなかった。


 練習後に開かれた浮嶋監督の囲み取材では、やはり齊藤の話になった。チーム一丸となるべき時期での諍い。齊藤は練習後、コーチと芝に腰を下ろし、15分ほど、膝詰めで話していた。その流れから、指揮官からは齊藤に反省を促す発言があると思っていた。

「緊張感かどうかは分かりませんが、どうも血の気の多い選手がいて……(齊藤は)中3の時、練習中にチームメイトと取っ組み合いのケンカをしていましたから」

 苦笑いの指揮官は懐かしそうに話した。そして続けた。
「ただ、そういう気持ちの強い部分をプレーで表現できるからこそ、プロになれた。あの気持ちの強さは変わっておらず、(諍いは)トレーニングから手を抜いていない証拠だと思う」。下部組織の時から見ている浮嶋監督ならではの愛情ある言葉だ。
 

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