【番記者コラム】タイトル獲得を現実的な目標に。仙台を変えた"ひとつの敗戦”

2020年04月29日 小林健志

準決勝進出の"悔しさ"を経て

18年天皇杯の決勝戦、埼スタのアウェーゴール裏は仙台サポーターで埋め尽くされた。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

 2009年シーズンにJ2リーグを制したベガルタ仙台も、それ以外、リーグ戦やカップ戦で頂点に立った実績がない。

 ただ、タイトルに近づいたチャンスは何度かあった。09年シーズンの天皇杯で準決勝進出、12年シーズンのJ1リーグでは優勝を争った末の2位。17年シーズンのルヴァンカップでもベスト4まで駒を進めた。そして最もタイトルに近づいたのが、18年シーズンの天皇杯だった。

 
 12年シーズン以降はリーグ戦で二桁順位が続き、カップ戦でもタイトルに恵まれない。これに慣れてはいけないと言わんばかりに、17年シーズンのルヴァンカップ準決勝で川崎フロンターレに敗れたあと、当時監督だった渡邉晋氏は悔しさを露にした。

「(ベスト4という好成績でも)満足できないんですよね。本当にタイトルを獲れたんじゃないかという悔しさを本気で味わう良い機会だったかもしれないが、それ(=準決勝)じゃダメなんだと強く思って、本気で上(=決勝の舞台)を目指していかないといけません」

 すると、選手からも「タイトルを獲る」という言葉が出始める。クラブにとって遠かった"タイトル獲得"を現実味のある目標へ。クラブの意識は変わり始めていた。

 翌年の天皇杯は、2回戦で当時J3のザスパクサツ群馬にFW西村拓真のハットトリックなどで4-0と完勝。3回戦はJ2の大宮アルディージャにMF中野嘉大(現・北海道コンサドーレ札幌)のゴールで1-0と勝利。横浜F・マリノスとの4回戦はFW石原直樹(現・湘南ベルマーレ)と当時大卒ルーキーだったFWジャーメイン良のゴールで3-2と競り勝った。

 準々決勝は当時J1のジュビロ磐田に先制を許したが、ジャーメインのゴールで追いつき、延長戦を経て1-1でPK戦に。そこでGKシュミット・ダニエル(現・シント=トロイデンVV(ベルギー)のファインセーブもあって勝利。9年ぶりに準決勝進出を決めた。

 18年12月5日に行なわれた準決勝。J2モンテディオ山形とのみちのくダービーは、ホームのユアテックスタジアム仙台で開催された。試合は、仙台がジャーメインのゴール(天皇杯で3戦連発)で先制。そのジャーメインのチャンスメイクからいずれも矢島慎也(現・ガンバ大阪)と平岡康裕も決め、3-2で決勝の舞台へと登り詰めた。
 

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