知らない世代に伝えたい。"絶頂期のカズ”は半端ないを通り越して神がかっていた

2020年04月27日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

とにかく勝負強くて、格好いい

Jリーグ開幕当初のカズ。決めるべきところで決める勝負強さは神がかっていた。写真:Jリーグフォト

 「ザマーを知っているかい?」

 雑談中、若手編集部員にこう聞いたことがある。すると、「う~ん、詳しくは知らないですね。もちろん名前は知っていますが」と返されたので、思わず少し早口で次のように説明してしまった。

 「えっ、マティアス・ザマーだよ。ユーロ96でドイツ代表の優勝に大きく貢献したあのザマーだよ。バロンドールにも輝いた世界屈指のリベロで、(ユーロ96の)クロアチアとの準々決勝では決勝ゴール。ディフェンダーなのに『なぜ、そこに?』って感じで、点を取るんだよ」

 これがいわゆるジェネレーションギャップなのか。そんなことを考えながら、もうひとつ質問してみる。

「じゃあ、Jリーグ開幕当初にバリバリ活躍していた頃のカズ(三浦知良)は知っている?」

 若手編集部員の反応はいまひとつ。返ってきた答は「活躍したのは知っていますが、具体的にどの試合でと言われると、すぐに出てきませんね」というものだった。知らないのか、もったいない。これが率直な感想だった。
 
 絶頂期のカズをリアルタイムで見てきた自分にとっては、彼こそ真のスーパースターだ。とにかくイメージとしては、大事な局面で必ずと言っていいほど決定的な仕事をする。その決定力たるや、半端ないを通り越して神がかっていた。

 例えば、1993年シーズンのJリーグ・チャンピオンシップ第1戦では鹿島を相手に先制ゴール、日本代表戦では92年のアジアカップ・イラン戦(グループリーグ最終戦)で決勝弾を叩き込んでいるのだ。

 勝たなければ準決勝に進めないそのイラン戦、終了間際に井原正巳のスルーパスから右足でゴールに叩き込んだカズはまさに救世主だった。試合後の「魂込めました、足に」というフレーズに心を揺さぶられたサッカーファンも多いだろう。

 ただ、イラン戦のゴール以上に記憶に刻まれているのが、1993年4月8日に行なわれたアメリカ・ワールドカップ・アジア1次予選の初戦、タイ戦での先制点だ。

 福田正博がペナルティエリア付近に出したパスに反応したカズは、目の前でバウンドして落下するボールを細かいステップで合わせて左足で蹴り込んだのだ。福田曰く「ワールドカップ予選の初戦でガチガチに緊張していた」日本代表にとって、文字通り値千金の決勝弾になるゴール(見た目以上に難しいシュート)はその後の戦いに勢いをもたらす意味でも印象深かった。

 93年アメリカ・ワールドカップのアジア最終予選・韓国戦で決めたゴールからも感じ取れるように、どういうわけかカズのところにボールが転がってくる。いや、絶妙なポジションを取っているからこそ、そういうシチュエーションが生まれるのだろう。

 もちろんシュートの上手さも見逃せない。蹴るコースが抜群に上手いのだ。振り返れば、感動的だった復興チャリティーマッチ(11年3月29日の日本代表対Jリーグ選抜)のゴールも、繊細なボールタッチ、正確なキックから生まれている。

 ここでゴールが欲しい。エースとしての重圧を背負いながらも、そのタイミングで大仕事をやってのけてしまうカズは、オフトジャパン以降、日本代表で最高のゴールゲッターだと確信している。

 とにかく、勝負強くて、格好いい。魅惑のドレッドヘア、当時は画期的だった"またぎフェイント"、そしてカズダンスも含めて絵になる男だ。たとえ、いつか、引退する日が来ても……。カズは永遠のスーパースターだ。

文●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)
 
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