VARがもたらす選手への心理的影響…当事者の鈴木は「結構こたえた」、一方で関根は逆手に

2020年02月22日 多田哲平(サッカーダイジェスト)

「ペナルティエリア内では、DFは慎重になる」(関根)

主審がオンフィールドビューで確認している最中には、大型ビジョンでも同様の映像が映し出される。写真:金子拓弥(本誌写真部)

[J1第1節]湘南2-3浦和/2月21日/Shonan BMWスタジアム平塚

 2-2で迎えた69分、プレーが切れると、湘南の選手たちは抗議を始め、佐藤隆治主審は両手でモニターのジェスチャーをして、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の使用を宣言した。

 疑惑のシーンは、その50秒ほど前。湘南の石原広教がペナルティエリアに侵入したところを浦和の鈴木大輔が身体を入れて阻止した瞬間だ。鈴木が体勢を落とした際にゴールラインを割りそうなボールを右手で触れてピッチに残したが、そのままプレーは続行されていた。

 佐藤主審が「オンフィールドビュー」でそのシーンを振り返っている間、スタジアムの大型ビジョンにも、同じ映像が流れる……。そこには明らかに右手がボールに当たっている様子が映し出されていた。

 そしてPKの判定が下される。鈴木も「故意ではなかったが、客観的に見て仕方がない。もしも逆の立場で湘南の選手があのプレーをしていたら、『ハンドじゃないんですか』と思う」と、試合後に納得したことを明かしていた。

 このPKをタリクが外したことで、事なきを得たが、鈴木は「スタジアムのサポーター全員が見ていて、結構こたえた」と苦笑いで振り返る。
 
 DFとしてはここまでハッキリとビジョンに映し出され、改めて判定を下されるとなると、なかなかボールホルダーに強く当たりづらいだろう。消極的になってしまう恐れがある。そんなDFの精神状態を逆手に取ったのが、浦和の右サイドハーフ関根貴大だった。

 85分、左サイドからボールを受けてペナルティエリア内に侵入すると、果敢に仕掛けて最後は左足を振り抜き、決勝ゴールをゲット!! まさにこの時、強気にボールを持てた理由が「VARが導入されてから相手も飛び込んで来れないと思っていた」からだという。

「正確にジャッジされますし、スクリーンにどのように映されるかも知れました。そこまで正確にやられたらペナルティエリア内では、DFは慎重になるので、うまく使ってプレーできたら良いかなと思います」

 値千金の決勝点を挙げた殊勲者は試合後にもそのように語っている。

 もっとも興梠が「ゴールしても取り消されるんじゃないか、という心配がある。緊張しますね」というように、必ずしも攻撃側にとって有利に働くわけではない。例えばオフサイドの見逃しなどがあった場合は、ゴールが無効になる可能性もあるのだ。

 攻撃側も守備側も一層気が抜けなくなりそうだ。

取材・文●多田哲平(サッカーダイジェスト編集部)
 
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