【日本代表 論評】十分に機能していない「4-3-3」の最大の被害者は香川だ

2015年01月13日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

香川がストレスを抱えずにプレーできるのはトップ下だけ。

2アシストと先制PKを奪った香川だが、試合全体を通して輝きを放っていたとは言い難い。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 日本の出来が、特に良かったわけではない。むしろミスが目立ち、それをチャンスに結び付けられなかったパレスチナの稚拙なプレーに助けられた印象だ。収穫は、明らかな格下に「勝てたことぐらい」(酒井高)だろう。
 
 もちろん個に目を移せば、評価に値した選手は何人かいた。良い時間帯に先制弾を叩き込んだ遠藤、中盤の掃除屋として機能した長谷部、CFの役割をまっとうした岡崎などだ。
 
 しかし、チームとしてはどうか。最も気になるのは、攻撃を仕掛ける際にスピードも怖さもない点である。出場16か国のなかで"最弱"と目されるパレスチナを、流れるようなパスワークで崩し切るシーンは数える程度だった。現地で観ていても、思わず心を奪われるようなアタックは皆無に等しかった。「4ゴールには全然満足していない。向こうは(退場者が出て)後半途中からひとり少なくなっているわけで、もっと取れたと思う。その意味で満足できるゲームではなかった」という長谷部のコメントにも深く頷ける。
 
 そもそも、アギーレ監督が就任当初から採用し続けている4-3-3システムが記者には十分に機能していないように見えるのだ。攻撃に専念させてこそ持ち味を存分に発揮できる香川を、守備も求められる"ミスマッチ"のインサイドハーフにいつまで縛り付けておくのだろう。
 
 パレスチナ戦の香川は特に前半、守備を意識しすぎているせいか自陣までポジションを下げる傾向が強く、無駄に体力を消耗している印象さえあった。はっきり言って、攻撃と守備の両方を要求するならこのポジションは香川である必要がない。センターハーフという括りではここに長谷部を抜擢し、空いたアンカーに今野を入れる手もある。香川は、十分な機能性を発揮していない「4-3-3」の最大の被害者だと言えるだろう。
 
 インサイドハーフに慣れるまで時間が必要との見方もあるが、果たして時間だけで解決できるのか。トップ下というカラーがおそらく染み付いている香川が、もはやカラーチェンジするのは至難の業だ。彼は、トップ下のスペシャリスト。だから、その10番の能力を最大限に引き出すには4-2-3-1システムがベストなのだ。いずれにしても、香川が常に敵陣の深いエリアでプレーできる環境を整えてあげれば、迫力不足のオフェンスが改善される見込みはある。
 
 パレスチナ戦で2アシストをした本人でさえ、この日のプレーに納得している様子はなかった。「ボールを受けてからの質という意味では、まだまだ経験が必要ですし、難しさを感じるところはたくさんあります」。自ら口にした課題は、アギーレ体制下で初めてインサイドハーフを任された10月のジャマイカ戦からなんら変わらない。
 
「次からはまったく別物のゲームになる」(長谷部)というグループリーグの第2戦以降は、守備の局面できっちりスペースを潰す相手と戦うことになるだろう。そうなった時に、限られたスペースのなかでも突破口を見いだせる香川のクイックネス、テクニックは不可欠な武器になる。
 
 本田が右サイドに定着した今、ザッケローニ政権時代のように「トップ下論争」は起こらない。香川がストレスを抱えずにプレーできるのは、トップ下という安住の地だけ。アギーレ監督が香川にこだわるなら、インサイドハーフを置く4-3-3に見切りをつけるべきだ。
 
取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

【アジアカップphoto】日本 4-0 パレスチナ
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