【コラム】久保建英の穴を埋めきれなかったFC東京…Jリーグは現場だけで勝てる時代ではなくなった

2019年12月10日 加部 究

久保の将来性を見越した先行投資には成功したが、その先の補填までは手が回らなかった

2019シーズン前半戦では特大のインパクトを残した久保。その価値はレアル・マドリーを振り向かせるまでとなった。写真:滝川敏之

 シーズン前のFC東京に、あまり明るい材料は見当たらなかった。長谷川健太監督が着任1年目の昨年は、前半戦を2位で折り返しながら、後半戦に限れば17位と完全に失速。特に39得点は最下位の長崎と同じで、指揮官は補強を望んでいたが、明らかにインパクトを与えそうな新戦力は見当たらなかった。

 ところがフタを開けると手持ちの駒が大化けした。長谷川監督も「若手がブレイクしてくれてもいいんだけど……」と話していたが、17歳の久保建英が開幕からスタメン出場を果たし、起点として溌剌と攻撃をコントロールするようになった。とりわけディエゴ・オリヴェイラとは互いに信頼し切っていた様子で、時には数的不利でもコンビで崩し切る。試合後のミックスゾーンでは、チーム最年少が全てのプレーを周囲の状況解説も加えて淀みなく振り返り、判断能力の成熟を感じさせた。

 ただし日本の歴史上でも類を見ない17歳の大ブレイクは、逆に喪失の大きさも浮き彫りにした。久保は開幕から8節の広島戦を除き14節まで13試合に出場し、チーム成績は9勝3分け1敗。逆に久保不在の21試合は10勝4分け7敗なので、約1.5倍の試合をこなしながら勝点は「4」しか変わらなかった。もちろんFC東京も手をこまねいていたわけではない。久保が18歳になれば可能性は判っていたから、同じポジションの候補として開幕前に韓国代表のナ・サンホ、夏には神戸から三田啓貴、さらには大学屈指のドリブラー紺野和也の獲得も決め、長谷川監督の就任とともにやって来た大森晃太郎も含めて、それなりに競争力は確保できていた。しかし前年までほとんど出番を得られなかった久保の価値は、半年もしないうちにレアル・マドリーが獲得に乗り出すまで急上昇しており、同じ戦術で代替を立てても、とても埋め切れる穴ではなかった。結局久保の将来性を見越した先行投資には成功したが、その先の補填までは手が回らなかった。

 一方昨年アンジェ・ポステコグルー監督を招き方向転換を図った横浜も、この2年間で多くの選手が去った。昨年は中澤佑二が引退し、ウーゴ・ヴィエイラ、山中亮輔ら中核クラスが移籍。今年も前半戦を牽引したエジガル・ジュニオが離脱し、天野純、三好康児が欧州へ渡った。だが指揮官の戦術を踏まえ、フロントが水際立った仕事で後押しした。マルコス・ジュニオール、E・ジュニオ、あるいはティーラトンと新しい助っ人が次々にフィット。故障したE・ジュニオの穴は、ボタフォゴからレンタルしたエリキが「2つのクラブを合わせて年間最多ゴール」の活躍で埋め、夏に名古屋からレンタルして来たマテウスも独特の味を添えた。そして出色だったのは、J3のFC琉球から朴一圭を発掘したことだった。

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