「人生の一部でなければいけない」名将ヴェンゲルの専用スタジアム建設へのススメ! 日本サッカーへの提言に

2019年10月27日 羽澄凜太郎(サッカーダイジェストWeb)

エミレーツ・スタジアム建設時の裏話

新スタジアム建設への課題は尽きないが、ヴェンゲル氏の言葉は、問題克服のためのヒントとなる。 (C) Getty Images

 1996年から昨年5月までの22年に渡って指揮を執ったアーセナルに数々のタイトルをもたらし、パトリック・ヴィエラ、ティエリ・アンリ、セスク・ファブレガスといった名手たちの才能を開花させたことでも知られる名伯楽アーセン・ヴェンゲル氏が10月24日、都内で講演会を行なった。

 第1部では、FC東京の大金直樹社長と東京ヴェルディの羽生英之社長、第2部では元日本代表監督で、現在はJFLのFC今治で会長を務めている岡田武史氏と熱い議論を交わした。

 興味深い話題が盛りだくさんだったこの講演会において、ヴェンゲル氏のトーン上がったのが、第1部でスタジアムと地域の関係性をテーマに語った時だった。

 長い監督キャリアのなかで、数々のスタジアムを目にしてきた老将は、フットボール・スタジアムの在り方について雄弁に語った。

「日本では多くが郊外に建っているが、移動するための30分から1時間の時間でさえもったいない。欧州も郊外にあるところもあるが、基本的に街中にある。仕事が終わった18時にスタジアムへ行く、または家から歩いて行ける、それから友人とご飯を食べた後にも行ける。それが理想だ」

 そのヴェンゲル氏は、アーセナルを率いていた2004年に本拠地がハイバリーからエミレーツ・スタジアムに移行した経験を持っている。

「魂があった。単なる建物ではなかった」とクラシカルな雰囲気のあったハイバリーに強い思い入れがあったヴェンゲル氏は、エミレーツ・スタジアムを建てる際に、クラブに対してある注文をつけたという。

「建築家とエミレーツ・スタジアムと作る時に、『見てくれ! この重厚感』とデザイン等について色々なことを言われたのだが、私は『ちょっと待ってくれ』と言ったよ。選手にとっては、外装や客席よりも、ボールがいかに速く動くかが大事で、ピッチが一番重要だった。

 だから、私の友人が立ち上げた芝生の状態を見る会社に仕事を依頼した。どのようにボールが曲がるのか? それから選手が走った時にどうなるのかをチェックしてもらうようにした。

 建設会社に客席の傾斜を32度にするようにも頼んだ。一番後ろに座るファンがピッチに近い感覚を持ってもらうようにしたかったからだ。ただ、これは安全面の問題から却下されてしまって、最終的には28度になった。それから、救急車が走れるようにピッチサイドを広く取った結果、ピッチとの距離感を失ってしまった」

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