クラシコの延期は賢明な選択。制御不能の“炎上”を引き起こす恐れも…【現地発】

2019年10月26日 エル・パイス紙

フットボールの政治利用は最も品性を欠いたデモ活動

クラシコ開催騒動は12月18日への延期で決着。ただラ・リーガが不満を唱えるなど火種はまだ燻っている。(C) Getty Images

 アルゼンチン人の作家、フリオ・コルタサルは1978年のワールドカップを「文化の柵」と表現した。この自国アルゼンチンで開催されたW杯は、政府によってフットボールが政治利用された最初のコンペティションでもあった。

 当時アルゼンチンでは国を支配していた軍事政権により、卑劣な残虐行為が繰り返し行われていた。しかし母国チームの躍進(アルゼンチン代表は初の世界制覇を果たした)は国民の愛国心を最大限に刺激し、結果的に政府の悪事は隠蔽されることとなった。

 フットボールだけが持ち得る特有のエモーショナルなエネルギーは国民を狂喜乱舞させ、あらゆる日常を忘れさせてしまったのだ。これ以来、自国の代表チームが好結果を残すたびに、政治家たちはそのご利益に預かろうと躍起になった。

 自らの権勢を誇示するためにありとあらゆる手段を駆使し、フットボールの政治利用は政治家が行なうもっとも品性に欠けたデモ活動の一つと言っても過言ではない。

 たしかにこの種のプロバガンダは効果が長続きしない。ポピュリズムの影響は無視できないが、広範囲、かつ深遠に伝播することはない。しかしだからと言って、政治とフットボールが同じ道を進んでもいいとは限らない。

 別々のベッドに寝かせておくに越したことはない。両者を混同することは使いようによっては新たな火種を生み出す危険性もあるからだ。
 
 カタルーニャ州の独立を問う市民投票の強行を主導したリーダー9人が、長期の禁固刑を言い渡された判決が発表されて以降、バルセロナでは街頭デモが頻発し、市民は窒息状態に陥りかねない日々を過ごしている。

 そんななかで政治的色彩が極めて強いエル・クラシコが刻一刻と近づいていた。しかも開催予定だった10月26日にはバルセロナで独立派住民による大規模なデモが予定されている。

 この事態を受け、安全性の確保が難しいと判断し、クラシコは延期されることになった(12月18日に開催)。街頭デモとクラシコという2つの巨大なムーブメントが一緒になって化学反応を起こせば、それこそ制御不能の"炎上"を引き起こす恐れもあった。

 今回の決断は、賢明だったと言えるのではないだろうか。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
 
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