アンス・ファティ、久保建英、イ・ガンイン…「早熟の天才」を持ち上げ過ぎるサッカー界の悪しき風潮【現地発】

2019年10月09日 エル・パイス紙

何人もの逸材が「ペレ2世」と名付けられた

(左から)イ・ガンイン、久保、ファティ。いずれも10代でラ・リーガの舞台でインパクトを残している。(C)Getty Images

 バルセロナのアンス・ファティは車の免許を取得することも、アルコール飲料を購入することも許されていない。しかしラ・リーガの1部でゴールを決めることはできる。いまスペインサッカーはこの新たな天才の出現の話題で持ち切りだ。

 16歳の新星は今シーズン、第2節のベティス戦で驚きのデビューを果たすと、翌節のオサスナとのアウェーゲームで後半から出場して初ゴール。第4節のバレンシア戦で初スタメンを果たすと、最初の2つのアクションで、立て続けに2得点・1アシストをマークするという離れ業をやってのけた。

 これまでサッカー界には早熟の天才が入れ代わり立ち代わり現れた。その決定的な分水嶺となったのが、58年のスウェーデン・ワールドカップで17歳にして鮮烈な世界デビューを果たしたペレだろう。その後は、何人もの逸材が「ペレ2世」と名付けられた。しかし本家の領域に達するどころか、その呼び名に見合ったキャリアを築いた選手も数えるほどだ。

 実際、ペレに匹敵する実績を残したのは、ディエゴ・マラドーナとメッシくらいのものだろう。ペレと同じ17歳でW杯(94年のアメリカ大会)に参加した(試合出場はゼロ)元ブラジル代表FWのロナウドも、当初はペレに匹敵する才能を発揮していたが、度重なる故障によりそのキャリアは尻すぼみに終わった。
 
 早熟の天才が、デビュー早々にスーパースターのように扱われるのは、サッカー界ではよくある話だ。同じ球技のバスケットと比較してもそれは明らかで、実際、コービー・ブライアントやケビン・ガーネットのような18歳で高校から直接NBA入りを果たした神童でさえ、スター選手として認知されるまでには数年を要した。

 唯一例外と言えるのがレブロン・ジェームズで、10代の頃から大人びた表情で、年齢を感じさせない圧倒的な身体能力を武器に、成熟したプレーを見せていた。

 サッカー界で早熟の天才が持て囃される傾向は、新しいスターの誕生を大衆が欲している裏返しでもある。フィジカルコンタクトとディシプリンを重要視する昨今の傾向が、サッカーからファンタジーを奪ってしまっている。そんななか、若手の溌溂としたプレーはビダミン剤のような役割を果たしているのだ。

 とりわけ、昨シーズンから今シーズンにかけて、ファティの他にもイ・ガンイン(バレンシア)、久保建英(マジョルカ)、ヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)ら才気溢れる若者がラ・リーガに新風を吹き込んでいる。
 

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