【鹿島】内田篤人は不在でも… ACL広州戦、87分に組まれた円陣にアジア王者の経験値が見えた

2019年08月31日 岡島智哉

試合は気温33度、湿度91%という猛烈な暑さの中で行なわれた

猛烈な暑さの中で行なわれた広州恒大戦。鹿島は堅守で勝点1をもぎ取った。(C) Getty Images

 8月28日、酷暑の中国・広州で行なわれたACL準々決勝第1戦。公式記録上の気温は33度だったが、会場の温度計は35度を指していた。陽がすっかり暮れた午後8時にもかかわらず、湿度も91%。高温多湿という言葉では言い表わせないぐらいの猛烈な暑さの中、鹿島は0対0のスコアをホームに持ち帰った。

 
 チームは後半途中から「0対0やむなし」の采配に切り替えた。交代1枚目で上田綺世を投入しアウェーゴールを奪いにいったが、全体の運動量がガクンと落ちた70分以降、殴り合いにもなりかねないオープンな展開の気配が漂い始めた。小泉慶の足がつると、鹿島ベンチは内田篤人ではなく、より守備的な永木亮太を右SBに投入。
 
 これを見届けたクォン・スンテはより時間をかけてゴールキックを蹴るようになり、3枚目にはボランチの名古新太郎が左MFで起用された。アウェーゴールに執着しない采配。大岩剛監督は「アウェーゴールを取りたかったが非常に過酷な状況の中だった。0対0は悪くない」と語っている。
 
 そんな展開の中、あまりお目にかかれない珍しいシーンがあったのは終盤87分のこと。広州恒大が守るペナルティエリアの少し外で、鹿島の5選手が円陣を組んだ。三竿健斗、犬飼智也、チョン・スンヒョン、町田浩樹、上田綺世。輪が解けると、三竿を除く4人はCKに備えてポジションを取り、三竿は相手の速攻に備えてセンターサークルへ戻っていった。犬飼によれば、CKを中で合わせる形の確認作業だったという。
 
 この円陣、結果だけを見れば、大勢に全く影響はなかった。直後のCKが相手に弾かれてしまったからだ。わざわざ肩を組んで話す内容でもなかったかもしれない。
 
 だが、いくら得点よりも失点のリスクを考慮した展開だろうと、セットプレーは点が取れるチャンス。チームとしてその意志を確認・統一するために選手たちが自発的に起こした行動だった。
 
 鹿島の円陣と言えば、昨季の準決勝第1戦水原三星戦が思い出される。開始10分で2つのアウェーゴールを与える波乱の展開に、輪の中心に立った内田篤人が「落ち着こう。まずは守備から」と声をかけた。焦りから攻め急ぎ、ミスが相次ぐ展開を危惧した内田の一声でチームは冷静さを取り戻し、3対2の逆転勝利を収めた。
 
 この日、内田はピッチにいなかった。それでも昨季の水原三星戦のピッチに立ち、突如の2失点に呆然とし、内田の一言で頭を切り換えた三竿健斗、犬飼智也、チョン・スンヒョンの3人を中心とした円陣が形成された。結果にこそ結びつかなかったが、鹿島の伝統、アジア王者としての経験値を感じずにはいられなかった。
 
 残り90分は、聖地カシマスタジアムでの一戦。再びアジアの頂点へと駆け上がる。
 
取材・文●岡島智哉(報知新聞)
 

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