サッカーに無邪気ではなくなったブラジルとチリ人の熱狂――コパ・アメリカ開催地の現実

2019年06月18日 熊崎敬

世界最大のスポーツの祭典を立て続けに開催した国に、お祭り騒ぎの雰囲気はない

開催地ブラジルはライフスタイルが多様化し、格差問題にもシビアな目が向けられている。(C) Getty Images

「サッカー王国」ブラジルが19年ぶりに迎えたコパ・アメリカ。当然、国中が熱くなっているかというと、実はそうでもない。
 
 開催国がボリビアを3-0で一蹴した開幕戦は満員にならず、そのほかの試合も空席が目立つ。南米最大の都市サンパウロの目抜き通りを歩いていても、コパの熱気を感じることはできないのが現状だ。
 
 ああ、チリが懐かしいなあ……と正直思う。
 
 2015年、私はチリでのコパ・アメリカを観戦したが、あの細長い国は悲願の初優勝を果たしたこともあって、最初から最後まで異様な熱気に包まれていた。
 
 開催国のゲームでは、キックオフ1時間以上も前からスタジアムが超満員になり、駅からの沿道にはダフ屋や出店がたくさん出て、さながら国を挙げてのお祭り騒ぎとなっていた。
 残念ながら(いまの)ブラジルには、そうした騒がしさがないのである。
 
 無理もない、と素直に思う。
 南米一の大国であるブラジルは、2014年にワールドカップ、その2年後にはオリンピックという世界最大のスポーツの祭典を立て続けに開催した。ビッグイベントに慣れた人々は、始まったばかりのコパでは盛り上がれないのだろう。
 
 私はいま、日本がチリと戦うモルンビー・スタジアム近くのフラビアという女性のアパートに間借りしている。
 リオ・オリンピックでテコンドーとホッケーを観戦したという彼女はコパの存在自体を知らず、19歳になる大学生の息子クリスも興味は音楽とゲームに向いていて、ネイマールが欠場したことも知らなかった。
 ふたりには「日本からサッカー見るためにブラジルまで来ちゃうんだ……」と呆れられています。
 

 もちろんそれでも大会が進むにつれて熱気は高まっていくはずだが、それでもいまのブラジルはかつてのブラジルではないのかもしれない。
 
 2014年のワールドカップで、ブラジル人が(ドイツ戦の大敗を除いて)いちばん驚いていたことがある。それは反ワールドカップデモが各地で起きたことだ。
 
 デモは前年に開催されたコンフェデ直前に火がつき、全国へと広がった。
《スタジアム造るのやめれば、学校や病院がたくさんできる》
《もう、サッカーだけの国なんてうんざりだ》
 といったプラカードをいくつも目にした。
「ボールが転がりさえすれば貧困を忘れられるほど、ブラジルは無邪気ではなくなったんだね」と年配の男性が語っていたのが忘れられない。

次ページチリ人記者は言った。「明日は1万5千人駆けつけるから、よろしくな」

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