【Jコラム】将棋をやればサッカーがより面白く、よりうまくなる!? 広がるコラボの可能性

2014年10月29日 頼野亜唯子

共通点の多い将棋の面白さはサッカー好きに伝わりやすい。

横浜のコラボイベントも今年で2回目を迎えた。波戸氏と盤を挟めるのも、ファンには嬉しい。

 一見、無関係そうな将棋とのコラボレーションが今年も山形と横浜の2クラブで実現している。元日本代表選手の波戸康広やプロ棋士の野月浩貴が感じた親和性の高さと両者が持つ可能性とは―。
 
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 今年8月。モンテディオ山形のホームゲームイベント会場に、元日本代表で現在は横浜F・マリノスのアンバサダーを務める波戸康広の姿があった。試合の解説でも、サッカーの指導のためでもない。青いユニホームを着た山形サポーターと、この日の対戦相手であるコンサドーレ札幌の応援に駆けつけた赤黒のサポーターが見守るなかで、波戸は将棋を指していた。
 
 山形は、将棋駒の産地である天童市に拠点を置く。その特性を生かして、昨年から始まったサッカー×将棋コラボ企画のひとつだ。波戸は「将棋親善大使」の肩書きを背負って、プロ棋士4人とともに招かれ、トークショーの後にプロ棋士と公開対局を行なっていた。将棋盤を挟むのは、広瀬章人八段。将棋界のトップ集団である「A級棋士」のひとりに、波戸は飛車落ちで挑んだ。序盤は快調な滑り出しだったが、局面が進むにつれ劣勢を余儀なくされる。
 
「(広瀬の)ディフェンスラインが固いですね。なかなか突破させてくれません」
「ここを突破すれば、あとはセンタリングを上げてゴールを決めるだけなんですが」
 横ではふたりのプロ棋士が、大盤で駒を動かして見せながら軽妙なやりとりで解説する。
「相手の駒を飛び越えて桂馬ですね」
「これは決まったのでは……」
「きれいなループシュートですね」
 サッカーファンの間から納得の声が漏れる。数手の後、波戸が投了を告げた。
 
 有料(大人500円)で行なわれたトークショーと公開対局に訪れたファン約50名の将棋理解度は幅広い。東京から来たという札幌サポーター(男性)は、元々将棋ファンでもあり、将棋イベントに魅かれて山形遠征を決めた。
 
 一方、「将棋はルールもあやふや」という山形サポーター(女性)の目当ては波戸。トークショーだけ聴いて帰ろうと思っていたのだが「対局が予想以上に楽しかった。解説が絶妙です」と興奮気味に話してくれた。
 
 この日の解説が好評だったのは、サッカー好きの棋士が顔を揃え、サッカー用語を的確に操って話したことが大きい。ただ、そうでなくとも本質的に将棋の面白さはサッカーファンに伝わりやすいのだ。
 これまでにもサッカー界と将棋界の接点はあった。日本サッカー協会最高顧問の川淵三郎は、2011年から日本将棋連盟の非常勤理事を務める。また、元日本代表監督の岡田武史には棋界の第一人者である羽生善治四冠(10月19日現在)との対談をまとめた共著『勝負哲学』(サンマーク出版)がある。
 
 だが、サッカーと将棋の共通点や親和性を根拠としたコラボレーションが表立って話題になったのはここ1、2年だ。契機となった出来事はいくつかあるが、発火点を探すと波戸に行き着く。
 
 波戸は子どもの頃から将棋が好きだった。小学1年からサッカーを始めていた波戸は、サッカーが好きだったが故に将棋にも興味を持った。「父に教わって将棋を始めたのが小学3年の時。その頃はもうサッカーでフォーメーションの練習をしていて、『このポジションの選手はこういう動きをしろ』と教わっていた。そのイメージが将棋の駒の動かし方と重なりました」
 
 サッカーは自陣のゴールを守りつつ敵陣のゴールを奪いにいく。将棋は自分の王様を守りつつ敵の王様を詰ましにいく。ゲームの目的も酷似している。サッカーで発揮される波戸の負けず嫌いは将棋にも作用し、地域の将棋大会で優勝するほどに腕を上げた。
 
 そんな波戸がプロ棋士と知己を得たのは引退する1年前。10年のシーズン中のことだ。横浜のオフィシャルマガジン『トリコロール』誌の対談企画の相手にプロ棋士を熱望し、実現させた。そして引退後の12年、この時の対談相手を通じ、サッカー×将棋コラボのもうひとりのキーマンである棋士・野月浩貴七段と出会う。

次ページ漫画というクッションがコラボのハードルを下げた。

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