日の目を見なかったレンタル生活から大エースへ! ハリー・ケインの知られざるキャプテンシー【現地発】

2019年05月30日 松澤浩三

奇跡の逆転劇を呼んだスピーチに見る知られざるケイン像

今やトッテナムの押しも押されぬエースとなったケイン。しかし、彼のキャリアも平坦なものではなかった。 (C) Getty Images

 トッテナム・ホットスパーのマウリシオ・ポチェティーノ監督は、いま、一つの悩みを抱えている。それはチャンピオンズ・リーグ(CL)の決勝でエースを起用するか否かだ。

 先日に開かれた会見で、4月9日に開催されたマンチェスター・シティ戦(CL準々決勝第1レグ)で足首を痛めて以来、戦列を離れているハリー・ケインの現状について、「満足している」と述べたうえで、「(チャンピオンズ・リーグの決勝で)ハリーを先発させるか否かは、我々が協議している再重要事項の一つだ」と明かしている。

 その一方で、準決勝のアヤックス戦でチームの中心にいたのは、エースの代役として先発で起用され、ハットトリックの大活躍を見せたルーカスだった。

 ルーカスの存在がなければ、3点差をひっくり返した奇跡の逆転劇も起きなかったわけだが、ケインはポチェティーノが事あるごとに「世界最高のストライカー」と形容し、全幅の信頼を寄せる存在である。だからこそ、指揮官は頭を抱えているのだ。

 クラブ史を振り返っても、トッテナムにとって、6月1日(現地時間)に迎えるCL決勝は最大級の大一番だ。選手の起用法が、試合展開に特大の影響をもたらす可能性が大きいだけに、自身にとっても初の大舞台となる47歳のアルゼンチン指揮官が、慎重になるのは当然だ。

 ポチェティーノは、この重要な一戦に向けてこうも漏らしている。

「試合の結果により、我々の判断が英断だったか愚断だったかがジャッジされることになる。勝利すれば『素晴らしい』と評価され、負ければ『最悪』と罵られる。あなたたちマスコミは、私のことを消し去ろうとするだろう」
 
 指揮官の悩みの種となっているケインだが、その存在感はトッテナムにおいて絶大だ。

 まだ、怪我から回復しておらずスタンド観戦を余儀なくされていたアヤックスとの準決勝・第2レグだった。前半を終えて0-2、2戦合計で0-3と絶体絶命の状況にあったチームをハーフタイムのロッカールームで鼓舞。チームメイトたちに飛ばした熱い檄が、後半の大逆転劇の呼び水となったことが話題を呼んだ。

 トッテナムとリバプールのOBピーター・クラウチは、アヤックス戦に出場していたダニー・ローズから伝え聞いたというロッカールームの雰囲気を、自身の人気ポッドキャスト『The Peter Crouch Show』で明かしている。

「彼は『ハリーがロッカールームに降りてきて、スピーチをした』と言っていた。そして、ハリーに鼓舞された選手たちは奮起したようだ。スパーズでのケインはレジェンドだ。毎シーズンのように30ゴールも決めているんだから、当然だよな。周りの選手たちも彼の意見に耳を傾けるようになるさ。監督からの指示は毎日あるが、主将(注:実際にはウーゴ・ロリスが主将のため、ケインは副主将)がそういうことをやるケースはあまりない。結果は、見てのとおりさ」

 イングランド代表でもキャプテンを務めるケインは、背中でチームを引っ張っていくのが合っているようにも見えるが、実際は、熱いスピーチをしてインスピレーションを与えるタイプのようだ。

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