【天皇杯】両者の思いが交錯したJ2対決 山形と北九州の大いなる野心

2014年10月16日 頼野亜唯子

ここで負けたら、気持ちが後ろ向きになってリーグにも悪影響を及ぼす。

J2対決を制する決勝点を決めた山形の川西。天皇杯優勝への強い思いを口にする。(C) 2014 MONTEDIO YAMAGATA

 図らずもJ2同士の対戦となった天皇杯準々決勝の山形-北九州。日が落ちて、気温は14.1度。山形のナイトゲームの寒さが、天皇杯も佳境に入ったことを体感させる。
 
 冷たい風が吹きつけるNDスタのピッチに立った2つのチームは、ともに苦しい状況で残り6試合となったJ2リーグを戦っていた。ただし、その苦しさの意味はまったく違う。
 
 北九州は勝点58で現在4位。本来なら、3~6位のクラブによって争われるプレーオフ進出に向け、意気揚がるところだ。しかし、北九州はスタジアムの条件未達等の理由からJ1クラブライセンスが交付されず、仮にこのままの順位でリーグ戦を終えてもプレーオフに出場することができない。勝てば確かな果実を得られる天皇杯への思いは自ずと膨らむ。
 
 一方の山形は、勝点52で8位につける。今季一度も連勝がなく、6位以内に入ったこともないが、ここへ来てやっと6位との勝点差を2にまで詰めてきた。ここからのリーグ戦は、一つひとつがまさに痺れるような、緊迫した戦いを強いられる。天皇杯かリーグ戦か、どちらかを選べと言われれば、リーグ戦に手が伸びても不思議ではない。だが、天皇杯でベスト4に進めばクラブ史上初。千載一遇とは言わないが、このチャンスを逃したくない思いもまた強い。
 
 終盤戦のリーグ日程の合間に組まれた平日のナイトゲーム。両クラブ、そして選手たちの意識・無意識の心理状態をあれこれと想像させて、試合は始まった。
 
 山形、北九州ともに、布陣はリーグ戦仕様のベストメンバー。もっとも、北九州はこれまで(対東京V、横浜、甲府)もリーグ戦とほぼ同メンバーで勝ち上がっている。対照的に山形はここまで(対熊本、ソニー仙台、鳥栖)、リーグ戦で出場機会のない選手を起用してきた。しかしこの試合は、直近のリーグ戦から怪我の小林亮と石川竜也を代えただけのメンバー構成。ベスト4への迷いない「本気度」が窺えた。
 
 このメンバーについて、石崎監督は試合後に「周りからのプレッシャーがあって。『なんとしてでも勝て』ということで」と、苦笑しながら語っている。「周り」とは誰なのかが気になるところだが、少なくともひとりは、強化責任者である石井肇テクニカルダイレクター(TD)だったようだ。
 
「このチャンスを掴み損ねたら、いろんなものが逃げて行く。もしもここで敗退したら、選手の気持ちが後ろ向きになって、リーグにも悪影響を及ぼす」
 
 体力的なハンディを負ったとしても、この試合の勝利はそれ以上のものをもたらす。周囲のプレッシャーに負けたように装ってはいたが、指揮官も同じ思いだったからこその判断だろう。

次ページJ1ライセンスがないチームが存在感を見せるには、決勝で勝つことが一番だった。

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