【広島】川辺駿の成長が凝縮された松本戦のワンシーン。進化を促した森﨑和幸との秘話

2019年03月21日 中野和也

激しくも美しい守備は紛れもなくビッグプレーだった。

川辺は今季、開幕4戦ともボランチで先発。好パフォーマンスを続けている。写真:徳原隆元

 松本山雅FCの最終ラインがポンポンとリズムよくパスを回す。サンフレッチェ広島もしっかりとボジションをとって対応していたのだが、ボールを奪うには至らない。

 広島の守備は、かつてのペトロヴィッチ・森保一時代の「素早いブロック形成」ではなく、前線からプレスをかけ、相手のパスコースを限定させ、意図してボールを奪いに行く形を目指している。「目指している」と記したのは、まだシステムとして明確に機能しているわけではないからだ。
 
 実際、58分に起きたこの場面、広島は前からプレスをかけようとしていたのだが、ゾーンが間延びして、スペースを与えてしまった。そこをついたのが、永井龍である。
 
 スッと中盤に下がり、フリーになった。最終ラインのサポートに入ったボランチの選手のワンタッチパスを受けた永井は完全にフリー。そこから一気にボールを運ぶ。この時、広島の最終ラインは4人いて、松本の攻撃陣は永井も含めて3人。人数は揃っているが、一気にスピードが乗っているアタッカーたちを抑えるのは至難の業。永井自身がゴールを決めなくてもスルーパスが前田大然に通れば、加速度ではJ1トップレベルのスピードスターに置いていかれる可能性もあった。このシーンが直接ゴールにつながらなくても、松本がペースを取り返すきっかけとなる可能性もあった。
 
 サッカーは、ほんの少しの隙から一気に状況が変わってしまうゲームである。何気ないところから、ほんのわずかなミスから、形勢が変わってしまう不安定なスポーツだ。この永井のカウンターは、そこまでパーフェクトにペースを握りながらリードを奪えずにいた広島の甘さに鉄槌を食らわせるものとなり得た。彼らにとっては千載一遇のビッグチャンスだったのだ。
 
 広島を救ったのは、24歳の若者である。永井に対してボールが入るその瞬間に切り替え、一気のスプリント。ストライカーが走るコースを読みきり、「ボールを奪い返すんだ」という気迫に満ちた迷いのないスピード。それでいて、やみくもに身体をぶつけるのではなく、しなやかに身体を入れてボールを奪いきり、冷静に仲間に繋げてマイボールに戻した。

 完璧にノーファウルでのボール奪取、それはまさに「こうやって守備をしよう」という自身が描いたストーリーどおりのプレーであり、センスなくしてできない。川辺駿が表現したこの激しくも美しい守備は紛れもなくビッグプレー。その直後に柏好文の強烈なゴールが生まれたのは、決して偶然ではない。

 もし、今までの彼だったら、松本戦58分でのプレーは、違った色になったかもしれない。人数が揃っていると見越してスプリントせず、攻撃に備える。守備に戻ったとしても永井へのアタックではなく、カバーリングの位置に戻る。それもひとつのプランだ。ただそれでは、松本にペースが傾いた可能性もあるし、決定的なシーンを作られたかもしれない。
 
 しかし、そこであえて永井に向かって走り、球際を戦い、奪いきる。こういう選択を彼が決断し、そしてやりきった。それによって広島がペースを相手に渡さず、得点につなげることができたことは間違いのない事実。川辺が今季、大きな成長を遂げたと言い切っていい理由は、判断も含めたインテンシティの高い守備の成長にある。

「川辺駿と松本泰志、ふたりのボランチの守備が安定しているので、大崩れはしない」
 
 4試合1失点という結果について聞かれた時、城福浩監督は若きボランチコンビを高く評価した。川辺自身も「(松本のような)スピード感のあるチームのカウンターを未然に防げた。自分たちからボールを奪いにいって攻撃につなげる形が必要だと思っていたし、それができたことはよかった。開幕よりも今のほうが良くなっている」と成長に手応えも感じていた。攻撃の能力は疑う余地はない。守備という武器を手に入れることによって、川辺駿という才能はついに開花の時期を迎えている。

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