選手交代における“複合的なプラス”と“1対1止まり”の差――「監督采配」からビッグゲームを検証する

2019年03月19日 中野吉之伴

選手交代には様々なメッセージが込められる

母国の王者クラブを的確な采配で苦しめ、敗退に追いやったクロップ監督。その良さが存分に出た一戦だった。 (C) REUTERS/AFLO

「監督の手腕が勝負の明暗を分ける」とよくいわれる。では、実際に監督の采配が、どれだけ試合の流れに影響を与えることができるのだろうか。

 試合に向けて相手と自チームを分析し、対策を練って練習に落とし込み、コンディションを調整し、モチベーションを刺激するなど、可能なだけの準備をし、シーズン全体の流れのなかで、試合当日に最適と思えるメンバーをピッチに送る。

 これが、監督がすべきとても大事な仕事であり、ここまでの仕事の質で、大きな差が出るとされている。試合が始まった後のシステム変更や戦い方、狙いどころの変更までも、あらかじめ可能な限り準備しておくことで、場当たり的な対応策として混乱をピッチにもたらすことなく、スムーズに戦い方を変化させることができるわけだ。

 世界的に名将と呼ばれる多くの監督が、「監督の仕事のほとんどは、試合が始まった瞬間に終わる」と言うのは、決して大袈裟ではないのだ。

 そんな試合中の監督の仕事のなかで、選手交代は一番試合に影響を及ぼすことができる要素ではないだろうか。そこには様々なメッセージが込められているし、優秀な監督は、そこではっきりとした意思をピッチ上の選手に示すことができる。

 それぞれの試合で一体、どんな狙いを持って監督は動いているのか。ここではそこに注目して、ひとつの試合を追いかけてみようと思う。今回はチャンピオンズ・リーグ(CL)ラウンド・オブ16の第2レグ、バイエルン対リバプール戦を取り上げ、試合の流れともに、両監督の采配の狙いを探ってみる。

 リバプールでの第1レグをスコアレスドローで終えた両チーム。バイエルンホームの第2レグでは、まず早々にリバプールのユルゲン・クロップ監督が動かざるを得ない事態が起こってしまった。

 6分、キャプテンのヘンダーソンが足首を負傷。一度はピッチに戻ったが、13分にファビーニョと交代。精神的支柱が離脱したが、まだ早い時間帯だ。自分たちのやり方を変える必要はなく、ファビーニョをそのままヘンダーソンのポジションに入れる。

 コーチングゾーンでクロップ監督は、マティップとファン・ダイクのCBコンビへ、盛んに「もっと積極的に押し上げろ」と、ジェスチャーでメッセージを送っていた。

 ファビーニョはヘンダーソンに比べると、守備時にボールに食いついてしまいがちだが、この日のバイエルンは攻撃に迫力がなく、そのギャップを突くことができない。ゴールが必要なコバチ監督は、1-1で迎えた60分にまず、最初の手を打つ。リベリに代えてのコマン投入だ。

 同じ攻撃的なタイプで、よりスピードを武器とする選手をピッチに送り込んだこの起用法は、サイドからの突破力を期待する他、攻撃にスピードをもたらすためのものだ。コマンに託されたメッセージは、他の選手はゴール前に人数をかけよ、というものだっただろう。

 だが、単発の仕掛けだけでは厳しい。リバプールはサイドを突破されても、センターにしっかりと選手が戻って守る。折り返しを跳ね返しさえすれば、問題はない。

 バイエルンが攻撃で変化をもたらせないでいる一方で、リバプールは69分、ミルナーのCKからファン・ダイクが高い打点のヘディングで勝ち越しゴール。これでバイエルンは、相当厳しくなった。2点を取らなければならないが、そもそもバイエルンには得点を取りにいくための策があっただろうか……。

次ページ両監督のあいだには大きな差が見られた

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