堂安律を凌ぐ久保建英の成長曲線――長谷川監督も驚愕した“1年の成長”の価値

2019年03月14日 加部 究

十代で将来を嘱望されたトッティも、本当の輝きを見せるのはだいぶ先のことだった

飛び級でU-22日本代表メンバーに選出された久保。JリーグではすでにFC東京の切り札的存在となっている。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 3月14日に発表されたU-22日本代表メンバーにも、飛び級ながら当然のように名を連ねている。今季、久保建英の成長が著しい。13歳でスペインから帰国後も、その能力の高さを随所に発揮してきたが、成長スピードはさらに加速している印象だ。FC東京の長谷川健太監督も驚きを隠さない、その急成長ぶりはなぜ可能だったのか。

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 久保建英は、日本記録を大幅に更新する成長スピードで突っ走っている。それは今に始まったことではなく、どうやら小学校入学前からだったらしい。だが天才が出現すると、メディアはブレーキなしに持ち上げ、反面懐疑的なアンチも育てていく。
 
「消えた天才」という番組が人気を集めるほど、日本では早く芽を出した才能が健やかに育つのが珍しい。もちろん海外も成功例ばかりではないのだろうが、ディエゴ・マラドーナは言うに及ばず、例えば16歳でセリエAにデビューした頃から、フランチェスコ・トッティは「将来はアズーリの10番」と言われていた。もっとも十代のトッティが繰り返すダイレクトのスルーパスが、本当に黄金の輝きを見せるようになるのは、だいぶ先のことだ。要するに彼我の決定的な違いは、天才を育て上げた経験則なのだろう。
 
 久保の技術の正確さや判断の的確さには疑いがなかった。残された課題は、コンタクトを伴う守備力に象徴されるフィジカルな部分なので、本来なら時間が解決してくれる。アルゼンチンやイタリアの関係者、サッカー通なら、判り切ったことなのかもしれない。だが久保は日本の概念を破壊する勢いで一気にトップリーグのピッチに駆け上がったため、度々期待値が年齢相応の基準を吹き飛ばしてしまった。
 
 昨年のシーズン序盤、FC東京の長谷川健太監督には「久保が出場することで周囲の大人たちの負担が増えているのでは?」という質問が出た。その時指揮官は答えている。
 
「大人たちも建英の才能を認めているから、汗を流している」
 
 当然である。すべてを備えた16歳など世界中を探してもいない。短所を補う長所があるから、若くてもそこに立つ資格がある。
 
 そして今年の開幕戦後には、敢えて自ら再び同じテーマに触れた。
「(久保は)素晴らしいの一言に尽きる。風下の厳しい条件でタメを作ってくれたから、相手が嫌な攻撃をできた。また交代するまで守備の穴も作らなかった。昨年と同じイメージでも奪われたり倒されたりしなくなり、改めてこの1年の成長を凄いと感じた」
 
 狭所で囲い込まれても、技術にブレがなく堂々と局面を打開し、後半も久保を起点としたカウンターは別格の精度だった。スピードを落とさず、視野を確保しながら、崩しのパスやフィニッシュを仕掛けられる。特に川崎戦は、相手に情報が足りていなかったこともあり、車屋紳太郎やマギーニョは何度か冷や汗をかいたはずだ。
 
 昨年久保をレンタルで獲得した際に、横浜のアンジェ・ポステコグルー監督は語った。
「十分な質を備えた選手だから、あとは経験を与えるだけだ」
 

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