【戦評|神奈川ダービー】ふたつの「!」が詰まったエンタテイメントに満ちたゲーム

2019年03月10日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

88分に川崎が勝ち越し。このまま決着がつくと思われたが…

今季初の神奈川ダービーは2-2の痛み分け。試合展開を含め、見応えのある一戦だった。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 これが王者の底力かと、しばし茫然とした。
 
 横浜担当としては、せつなくなる失点でもあった。1-1で迎えた後半、横浜は川崎を押し込む時間が増えていた。もう少しで逆転もありえるか、という期待を抱かせるも、川崎がこの日、ふたつ目のゴールを決める。
 
 88分、敵陣中央でボールを足もとに収めた中村憲剛がテンポ良く左サイドに配給。パスを受けた長谷川竜也が逆サイドにふわりとしたクロスを入れる。右サイドから走り込んでいた小林悠が打点の高いヘッドで折り返すと、中で待つレアンドロ・ダミアンが身体ごと投げ出し、ダイビングヘッドでゴールにねじ込んだ。
 
 ハイテンポなパスワークをベースに、3人目、4人目の動きを絡めながら、地上戦でスピーディに崩しにかかる。そんなイメージの強い川崎だが、ダイナミックなサイドチェンジから、小林やL・ダミアンらフィジカルに優れる選手のパワーを活かして、力強く相手ゴールをこじ開ける術も持っているのかと、その得点パターンの"懐の深さ"に恐れ入った。
 
 時間帯も考えれば、横浜にとっては致命的な失点とも思えた。内容は良くても、結局、最後は押し切られる。横浜に限らず、サッカーではよくある光景だ。
 
 勝てなかったが、あの川崎相手にまずまずの戦いを見せたかな、と敗戦を覚悟した。だが、ピッチに立つトリコロールの選手たちは、誰ひとり、諦めていなかった。
 
「絶対に最後まで諦めない。基本に忠実にというか、あそこで失点しても下を向かない、それは簡単なことじゃないけど、そういう声かけ、働きかけは大事だし、俺だけじゃなくて、周りの選手も声を出していた」(喜田拓也/横浜)
 
 ラストワンプレーだ。左CK。GKの飯倉大樹も攻め上がる。天野純が左足を振り抜く。途中出場の扇原貴宏がジャンプ一番、ヘッドで合わせる。川崎のゴールネットが揺れる。
 
 誤解を恐れずに言えば、"横浜らしくない"劇的な同点劇だった。かつての横浜なら、ある意味、負けパターンでもあった。だが、この試合では違った。
 
「今年のF・マリノスは、こういうのがちょっとあるかもしれない。去年の流れだったら、(先に失点して)崩れて、同点にしても、また失点すると、そのまま負けて、だったりするけど。今年は粘り強いというか、最後まで諦めない気持ちとかが、点にもつながったと思う」
 
 そう振り返る仲川輝人は、「満足はできないですけど」と唇を噛みしめるが、少なからずチームの成長も感じているようだ。
 
 日曜日の午後、3万6,216人が足を運んだ神奈川ダービーは、2-2の痛み分け。ただ、両チームの"意外な発見"とも言える魅力が凝縮された、エンタテイメントに溢れるゲームだった。
 
取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)
 
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