控え降格を受け止める笑顔の裏 「元守護神」チェフの物語【チェルシー番記者】

2014年09月18日 ダン・レビーン

テリー以上に信頼されるチームリーダー。

クルトワ(右)に正守護神の座を奪われたチェフ(左奥)は、この現実をどう受け止めているのか。 (C) Getty Images

【募集要項】
[1]ベンチからのサッカー観戦が好きなこと
[2]年収300万ポンド(約5億1000万円)以上
 
 こんな「求人募集」があれば、誰もが飛びつくだろう。しかし、実際にその職に就いているペドル・チェフは、真剣に転職を考えている。それはそうだろう。控えの座を嬉々として受け入れるGKなどいない。それが32歳と脂の乗り切った年齢なら、なおさらだ。
 
 10年に渡ってチェルシーのゴールマウスに君臨しつづけてきたチェフは、今シーズンそのポジションを失った。絶対的な守護神として獲得したタイトルは、3回のプレミアリーグ優勝に、チャンピオンズ・リーグとヨーロッパリーグの優勝が一度ずつ。FAカップは4回、リーグカップは2回制覇した。しかし、3年間という長期のレンタル期間をついに終え、戻ってきた22歳のティボー・クルトワに、正守護神の座を奪われたのである。
 
 武者修行先のアトレティコ・マドリーでぐんぐん成長するクルトワは、チェフにとってやはり気になる存在だった。取材中、ベルギー代表の後進に話が及ぶと、急に素っ気なくなるその態度から、それは明らかだった。チェフは気さくで、チームの誰も取材に応じたがらない時でも、応対してくれる数少ないひとりだ。それだけに、クルトワへの小さくない対抗意識が察せられた。
 
 記憶に残っているのは、2年前の出来事だ。チェルシーは前年王者として臨んだチャンピオンズ・リーグでグループステージ敗退に終わった。ディフェンディング・チャンピオンが決勝ラウンド進出を逃したのは史上初めてという失態だった。
 
 ロベルト・ディ・マッテオ監督(当時)の進退問題がヒートアップしていたこともあり、この時、取材に応じてくれる選手は皆無だった。ただひとり、チェフを除いてだ。
 
「いつでも話してくれるのはペドルだけ。それに乗じて、あれやこれやと質問攻めにする俺たちのことが大嫌いに違いない」
 記者仲間のひとりは、冗談めかしてチェフを称える。そんなチェフもブラックユーモアで取材現場を和ませてくれた。
 
 聡明さでは、フランク・ランパード(現マンチェスター・シティ)以上かもしれない。7つの言語を操り、興味を持った心理学を独学で学んでいる。
 チームメイトからの信頼は、キャプテンのジョン・テリー以上だろう。誰もが一目置く、絶対的なリーダーだ。

次ページトップレベルでプレーできる時間はあとわずか。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事