地球の裏側には体罰、苛めのない別世界があった…アルゼンチン留学の橋渡しをする日本人コーディネーターの想い

2019年01月28日 加部 究

日本一の強豪校に進学したものの新入生の振るい落としに遭い…退部、退学へ

元アルゼンチン代表のマキシ・ロドリゲスが主将を務めたニューウェルスには、昨年から6人の留学生を送り込んだ。

 部活が怖くて引きこもった高校生にとっては、同県内の6つ先の駅が最寄りの学校より、地球の裏側のほうがずっと近く感じられた。極めつけの強豪校に進学した四方浩文は、早々に新入生を振るい落とす「しぼり」の被害者になった。ノルマを果たせない選手がひとり出れば、連帯責任の名のもとに周りを終わりの見えない罰走へと巻き込んでいく。制限時間内に走り切れない四方には、同学年のチームメイトから次々に重圧をかけられ、退部、さらには退学へと追い込まれていった。
 
 そんな四方に転機をもたらしたのが、創刊間もない「ワールドサッカーダイジェスト」だったという。アルゼンチン留学の記事を目にした四方は、執筆者の故富樫洋一に連絡を取り、助言を得てアルバイトをしてコルドバへと旅立つ。
 
「今にしてみれば、当時の僕はリサーチや覚悟が不足していたとは思います。でも日本一の強豪校が走ってばかり。本当に世界もこんなことをしているのか、と確認してみたかった。本音は、プロになって思い切り見返してやろう、だったんですが、でもそこに別の世界があることを知って人生も一変しました」
 
 アルゼンチンでの競争は、別の意味で日本一の高校より厳しかった。しかしそこに体罰、暴力、苛めは介入せず、苦しい練習をやり切れば大きな称賛があった。また学校の先生が兼任する監督とは異なり、クラブでは成績が悪ければ解任される。フェアな競争だからこそ納得できた。
 
「引退する時も、一切後悔はありませんでした。その後は現地で日系人の代理人に勧められ、アルゼンチンへの留学の橋渡しをするようになったんです」
 
 これまで30~40人ほどの留学生を現地に送り、最近はアルゼンチン側の監督や選手を日本に紹介する仕事も始めている。消極的だった高校生の頃を知る人たちは、あまりの変貌ぶりを見て一様に驚くという。
 
「留学してパスが出てくるようになったのは、自分が上手くなったというよりは『寄こせ!』と要求し続けたからでした。自己主張することで周りの目も変わり、コミュニケーションが楽しくなり、語学の勉強も進む好循環が生まれたんです」
 

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