“ワニ”に食われなかった、とにかく身体を触りまくった――昌子源のデビュー戦への評価は?【現地発】

2019年01月21日 結城麻里

コミュニケーションの問題を露呈するも…

ボディランゲージで周囲とのコミュニケーションを積極的にとった昌子。言葉に問題を抱えている日本人DFなりの打開策だった。 (C) Getty Images

「ソージ、初先発、初勝利です。成功でした。本当に嬉しそうです」

 現地1月19日に行なわれたニーム戦(リーグ・アン第21節)の終了のホイッスルが鳴ると、試合中継を担っていた『beIN Sports』は、この日がデビュー戦となった昌子源の笑顔をしきりに映しながら、こう評した(「Sho」がフランス語発音では「ソ」になってしまうため、昌子はいまのところ「ソージ」と呼ばれている)。

 この日の対戦相手は、「クロコ(ワニ)」の愛称で恐れられるニーム。しかも敵地での一戦だ。この土地は、熱く激しい闘牛が盛んな町としても知られ、パリ・サンジェルマンも苦しんだ場所である。

 クロコたちは、キックオフ直後から3-4-3システムの3バックの左を担った"新参者"の昌子を狙って攻撃を開始した。だが、昌子は10分に攻め込まれたシーンでチームを救うプレーを見せると、直後の12分には、キラリと光るロングボールを前線右サイドへ供給してもみせた。一連の流れを見た中継アナが、「ソージ、ここまでのところ完全にフィットしていますね」とコメントしたほど落ち着いていた。

 だが、その後、連携面で味方とのタイミングがずれるようなシーンが散見。初の海外挑戦なだけに仕方ないが、コミュニケーション面で不安な部分を露呈した。

 そのときである。フランスでは珍しいシーンが見られた。
 

 アラン・カザノバ監督が、昌子の通訳に何かを伝え、通訳がそれを紙切れの上に翻訳。すぐに昌子がタッチラインへ呼ばれ、紙切れを渡されたのだ。連携面で戸惑いを見せていた背番号3は、その紙片を広げてさっと読むと、すぐポジションに戻って行った。

 これを見た解説陣は、「まだフランス語がわからないソージですから、コミュニケーションがとれず、紙に書いて指示したわけですね」「いやあ、通訳というのも、たいした仕事ですねえ!」と盛り上がった。言葉の壁をもつ昌子への皮肉も入っていたが、けなげな日本人選手への賛辞でもあった。

 しかし、指揮官の機転を利かせた咄嗟の判断が奏功する。昌子は徐々に落ち着きを取り戻したばかりか、持ち前のインテリジェンスを発揮。タクティル(触知的)・コミュニケーションを見せ始めた。

 誤解を恐れずに言うが、昌子は、とにかくチームメイトの身体を触りまくっていた。単なるジェスチャーや手のタッチだけでなく、肩や背中を軽く叩いたり、3バックでコンビを組む巨漢CBクリストフェル・ジュリアンを抱きしめて激励したりと、日本人が苦手とするボディタッチを、ごく自然かつ果敢に実行していったのだ。

 タクティル・コミュニケーションは、フランスでは極めて重要なファクターである。気づけば昌子とジュリアンの連係はスムーズになり、トゥールーズ守備陣全体もソリッドになっていった。

 攻撃へのトランジションがいまひとつであったため、41分にヤヤ・サノゴが挙げた泥臭いゴールで何とか勝利を収めたトゥールーズだが、その組織的なディフェンスは、反攻する"ワニ"の牙を着実に一本ずつもぎ取っているように見えた。

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