「俺みたいなもんは…」そう吐き捨てた小笠原満男。誰よりも輝き続けた“真の黄金”

2018年12月29日 川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

「自分は端っこも端っこ」「ドラフトで言えば6人中6位」

燦然と輝く17つの星と並んで、ニッコリと笑う小笠原。2018年12月28日、レジェンドは現役生活に別れを告げた。写真:田中研治

 取材キャリアを通して追い続けてきた名手がまたひとり、スパイクを脱いだ。小笠原満男である。

 もうあの雄姿をピッチで拝めないのか。わたしでさえ、これだけショックを受けているのだ。鹿島アントラーズ・サポーターの喪失感たるや察するに余りある。

 クラブワールドカップの準決勝、レアル・マドリー戦では後半途中からピッチに立ち、鬼のような形相でチームメイトを叱咤激励していた。黙々と仕事をこなし、静かに燃える闘将──。世間一般のイメージはまるで修行僧のようにストイックで、自己に厳しいプロフェッショルの鑑か。それもまた真理なのかもしれないが、わたしにとっての小笠原満男は、やはり冗談好きでどこまでも気さくな男なのである。初めて会った17歳の頃、ふたりきりのバスの車内でも弾けるようなスマイルを見せてくれた。いろんな名場面を掘り起こしても、思い浮かぶのは笑顔ばかりだ。兎にも角にもサッカーが好き、アントラーズが大好きなのである。

 
 昨年夏、黄金世代のインタビューシリーズでキャリアのすべてを振り返ってもらった。数多の名言を残してくれたが、個人的に忘れられないのがこのくだりである。
 
「やっぱり俺は岩手、東北の人間だから、黙々と淡々としていたい。いまだってそのまま行けるならずっとそうしていたいけど、立場が変わっていくなかで、発しなければいけない必要性が出てきたりでね。やっぱり言葉で引っ張らなきゃいけない、若い選手たちに声を掛けなきゃいけないときってあるからさ。いつまでも淡々と黙々ではダメだったんだと思う。もともとはそのほうが性に合ってるんだけどね。楽だし。だから頑張って、演じてます」

 ジョーク交じりにそう言って、笑みを浮かべていた。

 小野伸二や稲本潤一、高原直泰、遠藤保仁、本山雅志ら1979-80年生まれの黄金世代にあって、小笠原もまた筆頭格に挙げられて然りのレジェンドである。だが本人は10代の頃から「自分は(同世代で)端っこも端っこ」と位置づけ、アントラーズでは中田浩二や本山ら5人の逸材たちと同期入団となったが、そこでも「ドラフトで言えば6人中6位。補欠だよ」と言い放つ。周囲は誰もそうは見なしていなかったが、小笠原の自己評価たるや常にシビアだった。

次ページ「いつかは次にバトンを渡す日が来る」と話していた

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