「女子バレー勝った?」 躍進湘南を率いる曺監督の強みは常識に捉われない視野

2014年08月25日 熊崎敬

ブンデスリーガについて語り出し、さらには女子バレーにも。

後半の立ち上がりに磐田が先制すれば、湘南はこのウェリントンのゴールですかさず追いつく。最後までスリルに満ちた一戦は、1-1の引き分けに終わる。 (C) SOCCER DIGEST

 J2の首位を独走する湘南ベルマーレと3位ジュビロ磐田の上位対決は、1-1の引き分けに終わった。
 
 湘南の攻撃力に敬意を払い、磐田のシャムスカ監督は今季初めて5バックを採用した。慣れない布陣を敷いたことで磐田は精神的にも受け身になり、一方的に押し込まれた。前半はシュート0本。攻撃はほとんど形にならなかった。
 
 ところがサッカーはわからない。先制点を決めたのは、押されっ放しの磐田だった。前半を無失点で凌いだ彼らは47分、交代出場のチンガがカウンターから先制点を決める。
 
 磐田の激しい守りに苦しみながらも、湘南は敵陣で戦う攻撃的な姿勢を貫いた。そして60分、ウェリントンが同点弾を決める。遠藤航、武富孝介が厳しいマークを搔い潜ってパスをつなぎ、わずかにフリーになったブラジル人が、エリア外から反転ミドルを叩き込んだ。
 
 理想を貫いた湘南と、厳しい現実に正面から向き合った磐田の対決は、最後までスリルに満ちた攻防が繰り広げられた。勝敗はつかなかったが、なかなかいい試合だった。
 
 さて、この試合で強く印象に残ったのは、記者会見での曺貴裁監督の言葉だ。情熱家で研究熱心な彼のコメントはいつも面白いが、この日は訊かれてもいないのに、開幕したばかりのブンデスリーガについて語り始めた。
 
 昨シーズン、ブンデスリーガ2部で優勝したケルンが史上最少の失点を記録したこと、開幕戦でドルトムントを倒したレバークーゼンの監督が「最後に1点取って勝つようなチームは目指してない」と語っていること――。海外のサッカーから、彼は貪欲に何かを取り込もうとする。
 
 サッカーだけではない。ブンデスリーガの次は「今日は勝ったの?」と女子バレー、ワールドグランプリの結果を記者に逆取材していた。女子バレーに興味があるのは、彼女たちが画期的な新戦術「ハイブリッド6」に挑んでいるからだ。
「サッカーも常識に捉われることはない。サイドバックは上下動するだけではなく、シュートを撃ってもいい」と話していた。
 海外のサッカーを語っていたかと思うと、今度はサッカー界を飛び出してバレーについて語り出す。曺監督は好奇心と向上心の塊だ。
 
 大胆に押し上げた3バックから、次々とストッパーが前線へ「テイクオフ」する冒険心、失った瞬間に次々と敵のボールに殺到する徹底した守り。革新的な湘南のサッカーは、あらゆるものから貪欲に学ぼうとする指揮官の姿勢を抜きには考えられない。

次ページ「幅広い視野」は湘南というチームの伝統かもしれない。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事