10人の東京Vを勝利に導いたロティーナ采配! 大宮はなぜリスクを取れなかったか?【蹴球日本を考える】

2018年11月26日 熊崎敬

不利な条件を勝利につなげたロティーナ監督と、有利を生かせなかった石井監督

試合終了と同時にピッチには明暗が分かれた。両者を分ける差となったのは? 写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 数々のアドバンテージを生かせず、大宮がJ1昇格への道を絶たれた。
 ホームで引き分けても次に進める大宮は、スコアレスで迎えた59分、相手が退場者を出して10人になるという望外の幸運に恵まれた。ところが、引き分けるどころか敗れてしまう。
 
 これだからサッカーはわからない。一発勝負は恐ろしい――。
 ついつい、そんな常套句を使いたくなるところだが、冷静にゲームを振り返れば大宮の敗退は順当だと思う。
 
 大一番の明暗を分けたもの、それは厳しく書けば指揮官の采配といってもいい。
 
 東京Vのロティーナ監督は、劇的な勝利の興奮に酔いしれることなく、しっかりとゲームプランを語った。
 4バックの1トップで試合を始め、後半に3バックの2トップに移行する。
 これがロティーナの青写真。10人になったことで、プラン通りにはいかなかったが、前半から積極的に攻めに出て大宮を押し込み、数的不利に陥った59分以降も巧みに選手と布陣を変えながら、苦しいチームを勝利へと導いた。
 
 一方、敗れた大宮の石井監督は、序盤からまったくチームが機能しなかった。富山をサイドハーフに起用した中盤でプレッシャーがかからず、立ち上がりから防戦一方に追い込まれた。
 30分過ぎに富山をトップに、トップのマテウスをサイドハーフに下げて立て直しを試みたが、大きく傾いた流れを挽回するには至らなかった。
 
 退場者を出すという大誤算に見舞われながらも、的確な手綱さばきでチームを立て直したロティーナ監督に対して、石井監督は後手に回った。
 相手が10人になった59分以降、大宮はパスをつないで時間を稼ぎながら、カウンターでゴールを狙うという試合運びを選ぶこともできたはずだ。だが、守勢のゲームを変えることができないまま、手痛いゴールを浴びてしまう。
 
 不利な条件を勝利につなげたロティーナ監督と、有利を生かせなかった石井監督。このあたりは外国人監督と日本人監督の差といってもいいかもしれない。
 外国人は選手がそうであるように、監督もシビアに結果を要求される。結果を出せなければ、即アウト。そのあたり、日本人監督よりも厳しいところで生きている。
 
 もちろん、この勝負は指揮官だけの差ではない。
 もうひとつ思い当たるのは、財政的な差だ。大企業に支えられた大宮は、勝てなくてもチームが危機を迎えることはない。そんな甘さが、この試合でも目についた。
 引き分けで御の字と思ったわけではないだろうが、序盤から悪い流れを受け入れ、最後に猛攻を仕掛けたものの手遅れだった。この試合の重みを理解せず、淡々とプレーしているように見えた。
 
 一人ひとりがリスクを背負ってゴールを目指した、東京Vとの姿勢の差は明らかだった。

取材・文●熊崎 敬(スポーツライター)
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