“絶対的な勝者と敗者”を決するスーペルクラシコの開戦間近! なのに、関係者、メディア、ファンは意外にも…【現地発】

2018年11月10日 チヅル・デ・ガルシア

リーベルをよく知る記者が思う「屈辱からの解放」とは?

異様な熱気に包まれ、サポーター同士がいがみ合うスーペルクラシコ。それに南米王者の称号が懸かってくるとなると、何が起きるか、もはや想像がつかない。 (C) Getty Images

 南米のクラブ王者を決めるコパ・リベルタドーレス決勝で、「世界で最も熱いクラシコ」と呼ばれるボカ・ジュニオルス対リーベル・プレートのカードが実現することになった。

 この一戦は世界中から注目を浴びており、ボンボネーラ(ボカの本拠地)での第1レグには、25か国から850人もの記者が訪れる。

 アルゼンチンを代表するこの宿敵同士が揃って決勝トーナメント進出を決めたとき、私はボカとリーベルが決勝までぶつからない事実を確認して、やや安堵の気持ちを抱いた。正直なところ、どちらかが先に敗退すればいいと思ってもいた。

 というのも、2015年大会の決勝トーナメント1回戦で両チームが対戦した時、国全体がヒステリカルでナーバスな空気に包まれた結果、後半開始直前にボカのサポーターがリーベルの選手に向けて唐辛子スプレーを吹きかけたため没収試合となり、ボカが敗退してリーベルがベスト8に進出というアルゼンチン・サッカー史に汚点を残す出来事が起きてしまったからだ。

「リベルタドーレスで決勝に進出することは至難の業。うまい具合にボカとリーベルが順当に勝ち進み、決勝で対決なんてことはありえないだろう」

 ほとんど確信に近いレベルでそう思い込んでいた私は、もう二度とあの3年前の、戦争が勃発する寸前のような恐怖が漂う異様な雰囲気を味わわなくて良いことに安心しただけでなく、11月中旬から日本に一時帰国することを決めて航空券を買ってしまった。

 そう、リベルタドーレスの決勝が史上初のスーペルクラシコになるというのに、第2レグが行なわれる時、私はアルゼンチンにいないのである。ボカとリーベルの間で南米王者が決まる歴史的な瞬間を、地球の反対側からテレビで見届けることになっている。

 唯一、体験するのは第1レグのみとなるが、その決戦を直前に控えた今、現地には意外にも、2015年の時のようなヒステリックムードはない。メディアも、両チームの関係者も、サポーターたちも、どういうわけか落ち着いている。

 リーベルのファンで、フリージャーナリストとして紙媒体やテレビで活躍するアンドレス・ブルゴは、3年前と比べ明らかに冷静な現状の理由として、「今回は両チームが同じ感情を共有しているからだ」と語った。

 2011年にリーベルが降格した際、最愛のクラブが戦った2部リーグでの全試合を取材し、昇格までの道のりを綴った本『Ser de River(リーベル・ファンであること)』を出版している同氏は、次のように見解を口にする。

「ただでさえ、勝者が得るもの、敗者が失うものが大きいスーペルクラシコに、両者が渇望するリベルタドーレスがかかっている。どちらも、とてつもないチャレンジを前に、希望に溢れると同時に恐怖を感じるという、宿敵同士で全く同じ感情を抱いている状態にある。しかも現時点では、チーム力も互角。相手を挑発する余裕もなく、誰もが慎重になっている印象を受けるね」

 では、宿敵のボカに勝ってリベルタドーレスで優勝した場合、リーベルが得るものとは何なのか? アンドレスは、「2部降格の屈辱からの解放」だと答えた。

「我々の頭の中からあの悪夢を消してくれる、このうえないチャンスなのさ」

次ページ自らの人生をサッカーに投影するアルゼンチン人が騒ぎ出すのは…。

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