【横浜】悔しさを押し殺し、王者湘南の健闘を“拍手”で称えた喜田拓也の男気

2018年10月28日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

「これを見て、悔しさを思い出そうかな」

決勝はピッチに立てなかった喜田だが、そんな自分でもできることに全力を注ぎ、チームを後押しした。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト編集部)

[ルヴァン杯決勝]湘南1-0横浜/10月27日(土)/埼玉スタジアム2002
 
 壇上に上がった湘南の選手たちがトロフィーを掲げる。大会MVPに輝いた杉岡大暉がインタビューを受ける。
 
 その光景を、"準優勝"の横浜の選手たちが下から見上げている。辛い時間であるのは間違いない。タイトルを逃した悲しみに打ちひしがれたまま、両手を腰にあててピッチに視線を落としたり、座り込んでしまう選手がいても、仕方のないことだと思う。
 
 その中で、優勝セレモニーで歓喜に沸く湘南の選手たちの姿を、その目に焼き付けるかのように見入っていたのが、喜田拓也だ。拍手するタイミングでは、静かに両手を叩いて、県内のライバルチームの健闘を称えていた。
 
 なかなかできることではない。しかも、チームとして試合に負けたうえに、喜田はベンチ入りを果たすも、出場機会を得られなかった。ピッチに立って戦えなかった自分に腹を立てながらも、「言葉で表わせないくらいの悔しさ」を押し殺して、敵に拍手を送る。喜田は「そこまで意識してやったことでもなかったんですけど」と言い、こう続けた。
 
「スポーツなので、勝者がいれば敗者がいるのは当たり前。そういう考えを大事にしてきたし、湘南も身体を張って、勝ちたい気持ちを表現して頑張っていたと思うので」
 
 取材エリアに現われた喜田は、"準優勝"メダルを大事そうに手に持っていた。
 
「F・マリノスとして苦しい戦いを続けてきたけど、チーム全員の力で勝ち上がってきた。決勝で負けたけど、これですべてが終わるかっていうと、そうでもない気がする。もちろん、勝てればこれ以上の幸せはないけど、ここまでみんなと来れたっていうのは、意味のあることなのかなって」
 
 何とはなしに、両の手でもてあそばれたメダルが、小さくカチャカチャと鳴る。
 
「これを見て、悔しさを思い出そうかな」
 
 ファイナリストとして胸を張る。その舞台に立てなかった自分の力不足と、タイトルを獲れなかった現実から目をそらさず、受け入れる。
 
「時間が立って、あんなこともあったね、ではなく、この気持ちをずっと持てるような強い集団にしていきたいし、なっていくべきチームだと思う。F・マリノスはタイトルが似合うなって、言われるチームであるべき。現に、子どもの頃から見てきたF・マリノスはそうだったので」
 
 次こそは自分がピッチに立って戦い、頂点に立てるように。その日まで、喜田は走り続けるつもりだ。
 
取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)

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