【W杯 識者総括】看板スターに賭けた有力国の栄枯盛衰を横目に、ドイツが満喫する別格の充実

2014年07月16日 加部 究

アルゼンチンとバルサが向き合うかもしれない「メッシ」を巡る命題。

アルゼンチンを決勝にまで導いたメッシだが、今後は代表においてもバルサにおいても、そのプレースタイルが物議を醸すかもしれない。(C) Getty Images

 魅力的な好ゲームが数多く生まれた約1か月にわたる戦いは、ドイツの優勝によって幕を閉じた。スペイン、イタリアに象徴される有力国の早期敗退、コスタリカの予想外の躍進、そしてブラジルの衝撃的な敗戦と、様々な"事件"も生まれたブラジル大会を、開幕戦から現地で取材してきた加部究氏は、どのような大会として捉えたのだろうか。
 
【写真】ドイツ4度の世界制覇を振り返る(1954~2014)
 
 多くの有力国が端境期に近づき、ブラジル・ワールドカップを迎えた。
 
 時代を象徴するスターたちが充実期の後半から終盤に入り、頂点に立つラストチャンスに賭けた。なぜかMVPを手にしたリオネル・メッシは、その代表格とも言える。6年前の北京五輪で金メダルを獲得した仲間たちと、今度は黄金のカップを掲げるはずだった。理想的なシナリオは、あと一歩で完結しかけた。
 
 劣勢が予想された決勝戦は、むしろアルゼンチンの理想の展開で推移した。研ぎ澄まされた読みで危険な芽を次々に摘み取るハビエル・マスチェラーノを中心に、112分間もゴールに鍵をかけ1点を待った。ドイツが攻めてアルゼンチンが耐える展開は、1990年イタリア大会の決勝に似ていたが、今回アルゼンチンのカウンターは14年前よりは、はるかに鋭利で実際にゴールにも近づいていた。それだけに準々決勝でのアンヘル・ディ・マリアの離脱が痛恨だった。もし延長戦でロドリゴ・パラシオの代わりに、ディ・マリアがプレーをしていたら、明暗は裏返った可能性もあった。
 
 メッシは相変わらずボールを持たない限り、チームへの献身はなかった。確かにボールを持てば違いは見せたわけだが、アルゼンチンの決勝戦のポゼッションは40パーセントだ。今後のサッカーの戦術的な推移を考えると、ポゼッション以外の時間をひとり少ないに等しい状態で耐えられるチームが勝ち抜いていけるだろうか。
 
 かつてイビツァ・オシムは「ロナウジーニョよりエッシェンの方が良い選手」と定義したが、早晩アルゼンチン代表もバルセロナも、メッシを取るか、チームを取るか、の命題と向き合うのかもしれない。
 
 一方対照的に、クリスチアーノ・ロナウドは不運だった。決して悪いパフォーマンスではなかった。それどころか、多彩なフェイントを次々に繰り出し、単独突破にこだわったEURO2004当時に比べれば、はるかに凄みのある貢献をしていた。
 
 突破もできる。だが今のロナウドは、完璧にピッチ上の状態を把握し、瞬時に最適の選択を完璧に実践してみせる。アメリカ戦の土壇場で、シウベストレ・ヴァレラに送った芸術的なクロスなどは、まさにプレーヤーとしての充実を示すものだった。もし10年前にこんなプレーができていたら、欧州を制したのはギリシャではなくポルトガルだったはずだが、最後まで代表では大きな運を引き寄せられなかった。

次ページ代謝の見極めが遅れた国が、好調な波に乗った国の餌食に。

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