【アジア大会】「PKが大好き」なぜ、真性のストライカー・上田綺世は異常なまでに得点にこだわるのか

2018年08月25日 川端暁彦

上田がPKを蹴る際に考えていたのは「(自身の)株が上がるか下がるか」

きっちりとPKを決めた上田。短い時間で結果を残し、森保監督の期待に応えてみせた。写真:徳丸篤史

[アジア大会]U-23マレーシア代表0-1U-21日本代表/8月24日/インドネシア

 薄氷を踏むようなゲーム展開だった。アジア競技大会ラウンドオブ16、マレーシアとの一戦のスコアはキックオフ時点から全く動いていなかった。そんな状況で迎えた89分、日本はPKのチャンスを迎える。
 
 キッカーは交代出場のFW上田綺世。
 
 誰にも譲らないぞとばかりに自ら奪ったボールをセットして助走距離をとる。普段から「PKは好きなんで」と公言する男らしく、緊張感はあっても硬直はなかった。右足で強く蹴り出されたボールはしっかりとゴールネットを揺らし、試合の均衡がついに崩れた。
 
「PKはGKと1対1の勝負。駆け引きもありますけれど、結局は自分が決めるか外すかだけ。蹴れることは嬉しいし、PKは自分の中で武器だと思っている」(上田)
 
 公式戦のPKを外したのは、鹿島学園高時代の高校サッカー選手権・茨城県予選決勝が最後だと言う。「あのときは変な余裕というか、慢心があった。それでPKをバーに当ててしまった」という苦い経験を経て、「ひとつ(気持ちを)沈めてから蹴るようになった」という。その言葉どおりの落ち着きぶりだった。
 
 PKが大好きというキャラクターからも分かるように、プレッシャーを力に変えられるのが上田の魅力だろう。

「今日のこのPKを決めるか決めないかで上田綺世という株が上がるか下がるかだと思っていた。自分の存在を大きくできるかどうか。だから何としても決めたいと思った」(上田)
 
 PKのときにそんなことを考えていたのかと驚かされるが、真性のストライカーマインドを持つ男にとっては当たり前の認識なのかもしれない。
 
 今大会もグループステージで決定機を逃し続け、これ以上は失敗できないというプレッシャーで押し潰されても不思議はない。だが、森保一監督に呼ばれると、「この状況で起用されているのは信頼されている証」と燃え立つような前向きな気持ちを持ってピッチに入った。
 
 タイミングの良い裏抜けからPKを奪い取ったシーンも、まさにイメージどおりの形。足の速さに特長のある選手は単純にそれを頼ってしまいがちだが、上田の場合はきちんとゴールから逆算された動き出しを武器として持っている強みがある。

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