【W杯 識者コラム】ドイツの強さの源はEURO96優勝後の「猛省」にあり

2014年07月11日 加部 究

EURO96優勝の要因は「負けない魂」。質ではイタリアに劣っていた。

ブラジルを圧倒して決勝進出を決めたドイツ。18年前から続く、技術の裏づけに基づいた育成の賜物だろう。 (C) Getty Images

 ブラジルを7-1という誰もが予想し得なかったスコアで退けたドイツ。現地で取材を続ける加部究氏は、その強さの源を勝っても反省を怠らなかった18年前の真摯な態度にあると見ている。
 
【ブラジルW杯】全64試合フォーメーション――準決勝
 
 前半ブラジルが攻撃をしてくるゴール裏に陣取ったカメラマンが嘆いていた。
 
 結局反対側のゴールには計6ゴールが決まったのに、目の前で決まったのは2ゴール。
「しかも全然喜んでないんだから」
 
 歴史的な大差がついたベロオリゾンテの準決勝で、このカメラマンの目の前で決まったのは6点目と7点目。特に6点目は、お膳立てをしたトーマス・ミュラーがガッツポーズをした程度で、ドイツの選手たちはむしろ淡々と踵を返した。ブラジルの選手たちや地元ファンへの気遣いもあったかもしれない。
 
 実際、試合を終えた後にドイツのヨアヒム・レーブ監督も語っていた。
「我々も2006年に同じ思いをした。国民はみんな優勝すると思っていたが、準決勝でイタリアに敗れた。スコラーリ監督の気持ちは、非常によく分かる」
 
 ただし、どの時代でも安定して結果を出し続けてきたかのように見えるドイツも、この質的な復興を遂げるまでには長い蓄積があった。
 
 ドイツの指導者ライセンスの講師ゲロ・ビーザンツにインタビューをしたのは1996年。EUROで優勝を果たした直後のことだった。
「優勝はしたものの勝因は、負けない魂、戦う気持ちなどの部分にあって、質ではイタリアやロシアなどに劣っていた」
 
 その後2000年にドイツ連盟(DFB)で技術委員長の立場にあったマティアス・ザマーの主導で、育成からの徹底的な見直しが進められた。マンマークの3バックが中心だったドイツで、4バックの導入を義務づけ、技術の裏づけに基づくタレントの育成が浸透した。その結果、今大会ではスペインや日本なども苦しんだ荒れたピッチで、ドイツはまるでブラジルのお株を奪うようにパスをつないだ。
 
 7ゴールのうち、難易度の高いのはクロースの3点目と、シュールレの7点目くらい。残るゴールは、シューターにはプレッシャーがなく、逆にGKは成す術がないようなものばかりである。ドイツの選手たちが、正確な技術と判断力を駆使した証だった。意外なことに、5-0と大差がついた前半でさえ、ボールを奪い返した回数ではブラジルが上回り、ボールを失ったのはドイツの方が多かった。要するにブラジルはせっかく奪ったボールを、すぐに手放す回数が多かったというわけで、彼らのショックの大きさが分かる。
 
 今あるドイツの隆盛は、勝っても猛省した18年前から明確な計画に基づき築き上げられたものだ。日本が最も見習うべき部分だと思う。
 
取材・文:加部 究(スポーツライター)
 
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