批判覚悟の交代、異例の謝罪… クラブユース日本一に輝いた清水ユースが舞台裏で紡いだ物語

2018年08月02日 川端暁彦

何故、指揮官は大一番の試合終了間際にGKを交代させたのか

昨年のU-17W杯に参戦し、チームでもレギュラーを務める梅田(写真)。中学時代は天野の控えに甘んじることも。写真:徳原隆元

 直立不動での挨拶、事情説明から深々と頭を下げる。謝罪会見のフォーマットをなぞったような流れで始まったのは、「優勝会見」だった。

 8月1日に行なわれた第42回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会の決勝戦。清水エスパルスユースが大宮アルディージャユースを2-0で下し、16年ぶり2度目の王者に輝いた。

 万雷の拍手で迎えられるべき清水ユースの指揮官は、いきなり丁寧に頭を下げていた。報道陣が面食らったのは言うまでもない。
 
「リスペクトを欠く交代で、申し訳ありませんでした」
 
 平岡宏章監督が頭を下げたのは、後半終了間際の交代である。「絶対の守護神」と称賛してきたGK梅田透吾(3年)に代わり、控えGKの天野友心(3年)をピッチへ送り出したのだ。

 負傷などのアクシデントがあったわけではない。にもかかわらず、数に限りある貴重な交代枠を割くのだから、大宮側から「舐めている」と思われたのではないか。そんな懸念があったのだろう。
 
 実直な平岡監督らしい対応だが、もちろん理由あっての交代だ。梅田も天野もどちらも同じ3年生。清水ジュニアユース時代からしのぎを削ってきた間柄だ。

 中学時代は天野のほうが試合に出ることが多く、梅田が控えに回る時間が長かったが、ユースに入ってこの関係が逆転。昨年、梅田がレギュラーポジションをつかみ取った。
 
 ただ、昨年梅田が負傷離脱した際にも「天野がいるから、まったく問題ない」と平岡監督が強調していたように、ふたりの間に隔絶した力の差が生まれたわけではない。

「今日も梅田が活躍してくれていましたが、天野が出ても同じくらいの活躍をしてくれたと思います」(平岡監督)

 GKというポジションはひとつしかなく、正GKと副GKの間には埋めがたい出場時間の差が生まれるもので、このふたりも例外ではなかった。
 
 だが、その中にあっても腐らずにトレーニングへ励み、「試合に出なくてもチームを盛り上げてくれていた」(同監督)という天野への周囲の信頼は厚かった。

次ページ批判を受ける覚悟で、指揮官は3年生の控えGKをピッチに送り込んだ

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