【W杯 識者コラム】伝統の重みが浮き彫りになったラウンド16の激突

2014年07月03日 加部 究

世界の強豪国が経験している壮大な紆余曲折を思えば…。

アルジェリアを相手に辛勝したドイツ。僅差の勝負だったとはいえ、最後はやはり地力の差が見えた。 (C) Getty Images

 ついにベスト8が出揃った。拮抗したゲームが多いラウンド16の激突だったが、現地で取材を続ける加部究氏はどう見たのか。決勝トーナメント1回戦8試合を終えての印象を綴ってもらった。
 
【写真とコメントで振り返る】決勝トーナメント1回戦で去った8つの好チーム
 
 グループリーグでは波乱が続いたブラジル大会だが、ラウンド16では一転して伝統の重みが浮き彫りになった。
 
 各試合ともにグループ1位が順当勝ちしたわけだが、過去の実績が覆ったのはコロンビア対ウルグアイのみ。8試合中5試合が延長戦に突入したほどで実力は拮抗していたわけだから、改めて蓄積の重要性がクローズアップされたことになる。
 
 ベルギーに敗れたアメリカのユルゲン・クリンスマン監督は、母国ドイツとアメリカとの違いを聞かれて、おおよそ次のように答えていた。
「どんな相手にも気後れしないで立ち向かうメンタリティー。まだアメリカには、相手をリスペクトしすぎる部分がある。何年かかるか分からないが、克服しなければならない」
 
 振り返れば、日本代表チームが強豪国に敗れるたびに、よく聞かされてきたフレーズである。伝統国ドイツで生まれ育ち、ワールドカップ優勝経験を持つクリンスマン監督から見ると、国際スポーツイベントでは勇敢さの象徴のように映るアメリカの選手たちでさえも、サッカーに関しては勝者のメンタリティーが不足しているということになる。
 
 例えば、今回伝統の差をひっくり返したコロンビアは、1994年アメリカ大会の予選では、アルゼンチンを5-0で下し、あのペレも本大会での優勝候補に挙げていたほどだった。ところがフタを開けてみればグループリーグ敗退に終わり、アメリカ戦でオウンゴールを献上してしまった名手アンドレス・エスコバルが銃殺されるという悲劇が生まれた。大きな期待を集め、失意に沈み、それを乗り越えて前進していくのは、どんな大国でも辿って来た足跡だ。
 
 ブラジルでさえも、1950年地元開催の大会で、優勝を目前にしてウルグアイに逆転され、ユニホームの色を白からカナリア色に変えて再出発した。フランスにしても、ミシェル・プラティニらが君臨した1980年代に世界一に届かず、ようやく次の世代が1998年に戴冠した。オランダは、過去に3度も決勝に進出しながら、まだ優勝カップを手にしていない。
 
 日本は初出場した1998年フランス大会では、対戦するアルゼンチンやクロアチアのスターたちと初めて生で対面した。今では香川真司や長友佑都らが、スーパースターたちとチームメイトになった。長足の進歩を遂げたのは間違いないが、それでも思うような結果が出ず、再出発を強いられる。
 
 だが日本が撥ね返されたコロンビアは、まだ日本にとってワールドカップが夢だった1990年代前半に、すでに世界的に注目を集めていた。
 
 そして今回は、いよいよブラジルという大きな壁に挑む。こうした世界各国の壮大な紆余曲折を思えば、日本の敗戦も前進のためには不可欠な小さな躓きだったのかもしれない。
 
文:加部 究(スポーツライター)
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