「このフランスが美しいんだ!」とポグバが叫んだ。国民に捧げられた本当の意味での“2つ目の星”

2018年07月16日 結城麻里

あれ? 凱旋門にはなんと「23人全員」の顔が

凱旋門にうっすらと浮かび上がる雄鶏と2つの星。20年前とは、なにかが違っていた。(C)Getty Images

 フランス代表のワールドカップ優勝が決まってからその翌朝まで、国中に狂乱の嵐が吹き荒れた。
 
 ロシアにいるレ・ブルー(代表チームの愛称)たちのロッカールームはカラオケ兼ディスコ会場と化し、フランス人も全土で数千万人が街頭へ。クラクションは明け方まで鳴り止まなかった。そして彼らは深夜になって、「2つ目の星はあなた方フランス人に捧げる」と表明したのだ。
 
 実は7月15日の22時、煌びやかな花火とともにシャンゼリゼ通りを埋め尽くした人びとは、大盛り上がりのなかでいまかいまかと待ちわびていた。凱旋門に誰の顔が映し出されるのかをだ。1998年大会の初優勝の際は、もちろんジネディーヌ・ジダン。彼が国民的ヒーローになった瞬間だった。「ブラック・ブラン・ブール(黒白アラブ)」の陶酔が全土を覆った瞬間でもあった。
 
 ところがその時間が来ると、凱旋門の上部に「これ(星)をもぎ取ったのはフランスだ」という標語が映し出された。次の瞬間出現したのは、頭上にひとつの星が輝く巨大な雄鶏。次いでそこに2つ目の星が登場する。なんとレ・ブルー23人全員の顔が、ひとりまたひとりと紹介され、それぞれのファーストネームと出身の町名が添えられた。


 
 この意外な演出に、最初は首を傾げる者も多かった。シャンゼリゼを見下ろす超高級アパルトマンのテラスを借り切って、中継討論をしていたテレビ版『L’Equipe』の現場チームも、思わず「23時に誰がプレジダンか映されるはずなんですが……」と困惑気味。筆者も、「もしかして愛国主義を煽るナショナリズムの兆候?」と密かに危惧した。
 
 だがいまのところ、どうもそれとは違っているようだ。凱旋門の演出には深い意味が込められていたことが、徐々に伝わってきている。2つ目の星は、本当に国民に捧げられたのだ。
 
 そもそも今回のチームは、巨大なタレントを誇るビッグなスタープレーヤーたちが、揃って巨大なエゴを捨て、チームのために戦う「陰の戦士」と化し、泥と汗にまみれて団結したのが特徴的だった。自分だけ目立とうとした選手はおらず、「誰かひとりでもバロンドールを意識したら、その時点で優勝は逃げてゆく」と自覚していた。それは実に、崇高で深みのある意識だった。だから誰かひとりの顔を凱旋門に映し出すことはしなかったのだ。

 

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