フランス代表を支えた“恐竜”が去った日。異例の拍手と感動に包まれた「最後の記者会見」【ロシアW杯】

2018年07月14日 結城麻里

マテュイディは「日曜日は僕らが、アポテオーズにするよ」

世紀のファイナルを前に、フランス代表のひとりの“名手”が現役を退いた。世界的に有名な名物広報部長、このトゥルノン氏だ。(C)Getty Images

 ワールドカップ決勝を2日後に控えた7月13日、フランス代表のベースキャンプ地イストラで異例の光景が創出した。
 
 この日は、レ・ブルー(代表チームの愛称)の選手たちがベースキャンプで行なう最後の記者会見。試合前日は現地に移動するうえ、記者会見もそこからはFIFA(国際サッカー連盟)が仕切る公式会見となり、優勝してもしなくても選手とスタッフはイストラには戻らず帰国となる。
 
 しかももうひとつ、特殊な事情があった。
 
 実はこの記者会見は、コワモテなのにひょうきんなフランス代表名物広報長、フィリップ・トゥルノン氏(8月で75歳)が仕切る、キャリア最後の記者会見だった。トゥルノン氏は、レ・ブルーが優勝してもしなくても、今回のワールドカップを最後に引退することになっているためだ。

 
 この日の記者会見に登場したのは、ブレーズ・マテュイディとアントワーヌ・グリエーズマンのふたり。記者会見はいつもどおり、全記者の名を記憶しているトゥルノン氏の采配で、テキパキと進んでいった。フランス人記者たちも、いつもどおり急所を突く鋭い質問をどんどん発射していく。
 
 ところがある記者が、マテュイディにこんな質問をした。「よほどのサプライズがない限り、これがフィリップ・トゥルノン采配の最後の記者会見です。彼とその人物像についてなにかひと言」と――。
 
 マテュイディはくしゃくしゃの笑顔を作り、こう答えたのだ。
 
「まずは、ありがとうフィリップ。僕は2010年から知り合いになったんだよね。長いこと一緒に過ごした。ときには厳しかった。僕がしょっちゅう遅刻したからで、彼は耳を引っ張ってくれるためにいてくれたんだ。同時に彼は、あなた方(記者団)が気持ちよく過ごせるためにも存在していた。彼はフランス代表のプロジェクトにとって、長きに渡ってものすごく重要な人物だったね。ブラボー、ブラボー、フィリップ……」
 
 するとトゥルノン氏が遮り、「そこで終わりだ! 次の質問!」と別の記者を指名。だがマテュイディは「最後まで言うよ」と抵抗し、「日曜日は僕らが、アポテオーズ(最高の栄誉でフィナーレを飾る)にするよ」と深い言葉を贈ったのである。
 
 ところが次の記者が質問したにもかかわらず、マテュイディは心ここにあらずの体で、ボーっとしたまま。慌てて「フィリップの感動に気をとられて質問が聞き取れなかった。もう一度言ってください」と聞き直し、和やかな笑いに包まれた。
 

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