【W杯 今日は何の日?】6月29日「ふたりの天才が初戴冠を果たした日」

2014年06月29日 サッカーダイジェストWeb編集部

3試合連続で決勝点を挙げた17歳。決勝戦では歴史的な美技も。

ペレ(下段右から4人目)をはじめとするタレント集団は北欧の地で初戴冠。欧州で南米勢が優勝した唯一のケースとなった(その逆はいまだなし)。 (C) Getty Images

 1958年6月29日、ストックホルムのラスンダ・スタジアムでは、スウェーデン大会の決勝が行なわれた。スタンドを埋め尽くした5万人の大観衆は試合前から熱狂。それもそのはず。決勝に進出したのは、地元スウェーデンだったのだ。
 
 盛り上がるスウェーデン国民、そして選手の前に立ちはだかったのは、優勝候補筆頭に挙げられていたブラジル。しかし、スウェーデンは楽観的だった。なぜなら、試合前にスタジアムは激しい雨にさらされ、ピッチは洪水状態になっていたからだ。華麗なパス回しを武器にするブラジルにとって、このコンディションが不都合なものであることを、スウェーデンは理解していた。
 
 実際、ブラジルはぬかるんだピッチに苦しみ、この隙にスウェーデンはニルス・リードホルムが先制点を奪ってみせる。開始4分のことだったが、このゴールにスウェーデンは有頂天。まだ残り時間はたっぷりあるというのに、選手は冷静さを失いつつあった。
 
 対するブラジルは、いたって平常心だった。その高い技術をもってすれば、少々の悪コンディションなど克服できることを知っていたからだ。事実、失点から5分後にはババが同点ゴールを決める。この後、ブラジルの攻撃はますます破壊力を増し、開催国を自陣に釘付けにしていった。32分には再びババが決めて勝ち越し。そしてその3分後、17歳の少年が世界を魅了する美技で追加点を挙げた。
 
 エドソン・アランテス・ド・ナシメント。ペレと呼ばれたその少年は、大先輩のニウトン・サントスの推薦を受けてグループリーグ最終戦のソ連戦からレギュラーに抜擢され、準々決勝ウェールズ戦で早くもゴール(しかも決勝点)を挙げ、さらに準決勝フランスではなんとハットトリックを決めていた。そしてこの決勝の大舞台で、浮き球のパスを正確にトラップし、太ももでボールを浮かせてDFの頭上を越し、そのままボレーでゴールを決めたのだ。この時代、こんなゴールを決められるのはペレだけだった。そして結果的に、この美弾が決勝点となったのである。
 
 試合終了間際にも、飛び出したGKの頭上を越す技巧的なヘッドを決めたペレ。得点を決めたババ、マリオ・ザガロ、2アシストのガリンシャ、ニウトン・サントスなど、タレントの宝庫だったブラジルのなかでも、より強い輝きをこの17歳の"黒い真珠"は放っていた。
 
 ピッチ上での堂々とした勇姿とは対照的に、優勝決定後は喜びと感動で泣きじゃくり、先輩たちにあやされる初々しい姿を見せたペレ。完膚無きまでに打ちのめされたはずのスウェーデン国民は、しかし清々しい表情でこのブラジルが生み出した最高傑作に惜しみない拍手を贈った。

次ページ徹底的マークされたマラドーナが最後に通した栄光へのパス。

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