【現地発】そしてイニエスタは、バルサのレジェンドになった…

2018年05月22日 エル・パイス紙

メインゲートから愛するクラブを出て行く。

退団セレモニーでカンプ・ノウのファンに別れを告げるイニエスタ。(C)Getty Images

 アンドレス・イニエスタは4月27日、退団発表会見で涙を流した。その姿は、まさしくカンプ・ノウのピッチでプレーするいつもの彼そのものだった。穏やかかつエレガントにハーモニーを奏で、ときに「間」を置く際も、スイングダンスを踊るかのように軽快なリズムを刻んだ。

 バルセロナの"マシア音楽院"が輩出したスペースと時間の概念を操る最高のソリスト(独奏者)は、彼流のスタイルで、みずからの気持ちを明らかにした。

 イニエスタはパウサ(=間)を操る天才だ。彼のドリブルはスケーターのようにシャープで滑らかで、さらに相手をかわそうとする際に、一瞬だけ動きを止める。その「間」が絶妙なのだ。縦に長く幅が広いカンプ・ノウのピッチ内を、スイスイとスラロームするような感覚で、ボールとともに縦横無尽に駆け抜けつづけた。

 記者会見の最中、イニエスタの声は震えていた。それは感極まった彼の感情の発露であり、だからこそなのだろう、彼が発したメッセージの一つひとつは説得力に溢れていた。

 またそれは、決して得点力が高いとは言えない彼が、スタンフォードブリッジでのチェルシー戦(2008-2009シーズンのCL準決勝第2レグ)、南アフリカ・ワールドカップ決勝のオランダ戦(2010年)、そして先日のコパ・デル・レイ決勝のセビージャ戦と、ここぞという局面で記憶に残るゴールを決めてきた姿によく似ていた。
 
 イニエスタの目は慈愛に満ちている。彼がサッカーと向き合う姿勢は、真っすぐで謙虚で寛容でチーム愛に溢れ、その自然体の姿勢は、12歳でバルサ・カンテラに入団したときとまるで変っていない。イニエスタは当初、マシアという壁に閉じ込められた感覚に囚われ、絶望的な気持ちにも襲われたという。

 しかし彼は、バルサで成功するみずからの姿を夢見て、孤独に耐えた。そしてその夢を叶え、さまざまな思い出を作ったあと、不動のレギュラーというステータスを維持したまま、メインゲートから愛するクラブを出て行くのだ。

 周知のとおり、イニエスタはバルサと生涯契約を結んでいた。いうなれば、この異例の契約は、クラブ側とイニエスタ側の双方が「アディオス(さよなら)」を言うベストのタイミングを探るための手段だったともいえる。そしてイニエスタはその最初のタイミングで、袂を分かつ決断を下した。
 

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