【現地発】フランクフルトにもたらされた至福の時――待望の「神」の復活は劇的に!

2018年05月11日 中野吉之伴

3度目のボールタッチで正確なダメ押し弾!

記念のボールを手に、復活の喜びをファンと分かち合ったマイアー。この試合、ハンブルクの残留を懸けた戦いという意味合いもあったが、ホームチームは最高のかたちで崖っぷちの相手を下し、35歳の「神」の復活を祝福した。 (C) Getty Images

「フースバルゴット(ドイツ語で『サッカーの神』の意)」と呼ばれる選手がいる。
 
 苦しい時に救ってくれる、大事な時に重要な仕事をしてみせる。そんな、絶対に欠かすことができない、クラブのアイデンティティーそのものであり、そのクラブを象徴する存在に敬意を表して、ファンはこの異名を贈るのだ。
 
 各クラブに「フースバルゴット」と呼ばれる選手はいる。だが、彼ほどファンに愛され、チームメイトに信頼され、クラブに関わる全ての人を幸せにできる選手はいない。
 
 アレクサンダー(アレックス)・マイアー。
 
 フランクフルトのFWであり、2014-15シーズンにはブンデスリーガの得点王にも輝いたことがある。
 
 だが、この8か月ものあいだ、負傷に苦しめられていた。もう限界なのではないか? 伝説は終わりを告げるのではないか?……そんな声も囁かれるようになっていた。だが、マイアーはチャンスを、可能性を信じていた。またピッチに立てる日のことを。
 
 リーガ第33節のフランクフルト対ハンブルク戦。2-0とフランクフルトがリードを広げた終盤、5万1000人の観客でスタンドが埋め尽くされたコメルツバンク=アレーナで、ホームチームのファンが歌い出した。
 
「フースバルゴット、フースバルゴット、アレックス・マイアー、フースバルゴット!」
 
 声はどんどん大きくなっていった。ゴール裏で始まった歌は、スタジアムを包み込んでいった。
 
 80分過ぎ、ニコ・コバチ監督は、アップをしている「我らが神」を呼んだ。ファンのボルテージが上がる。そして86分、ついにその時が来た! ファンは立ち上がる。盛大な拍手が鳴り響く。
 
 スタジアムDJがアドレナリン全開で、絶叫するように選手交代を告げる。
 
「カムバックだ! 背番号14、アレックス――」
 
 ファンが精いっぱいの声で返す。
 
「マイアー! フースバルゴット!」
 
 ヨーロッパリーグ(EL)出場権獲得へ大きな一歩となる勝利がほぼ確定した上に、マイアーも復帰した。フランクフルトファンにとっては、これだけで十分幸せな展開だったことだろう。だが、彼らは忘れていなかった。マイアーが「フースバルゴット」であるということを。
 
 アディショナルタイム1分、右サイドをオーバーラップしてきたアブラアムが右足でゴール前にクロスを上げると、ファーサイドにはマイアーがいた。左足インサイドで合わせた正確なシュートは、ゴール右隅へ決まる。この日、3度目のボールタッチだった。
 
 その瞬間、破裂音に近いほどのファンの歓声が、スタジアムに轟いた。本当に全ての人が、大喜びしていた。ベンチの選手、スタッフ、コーチ、監督、全員がピッチに飛び出した。マイアーと交代でピッチを後にし、左膝に氷嚢をあてていたセバスティアン・アレさえもだ。
 
 友人であり、長くプレーを共にしているマルコ・ルスは、「こんなのはサッカーでしか起こらないよ。みんなもそう思っているでしょ? 僕たちは、このためにずっとやってきたんだな。アレックスは今日のこの瞬間を、絶対に忘れないだろうね」と、友の復帰を喜んだ。

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