【番記者通信】モウリーニョが仕掛けた”口撃”の真意|チェルシー

2014年02月25日 ダン・レビーン

相容れない2人の性質

「彼(ヴェンゲル)こそ“失敗のスペシャリスト”だ。私ではない」とヴェンゲルに対して辛辣な言葉を放ったモウリーニョ。その真意とは――。 (C) Getty Images

 アーセナルの指揮官アーセン・ヴェンゲルに向けた、ジョゼ・モウリーニョ監督の“口撃”は、なかなかに辛辣だった。

「彼(ヴェンゲル)こそ“失敗のスペシャリスト”だ。私ではない」

「百歩譲ってアーセンが正しかったとしよう。私は失敗を恐れているのかもしれない。だがそれは、私に失敗の経験がないからだ。であれば、アーセンは正しいのかもしれない。失敗に対する免疫がないのは確かだ」

「8年間も無冠などありえない。仮に私がそれだけ長い間トロフィーを獲れずにロンドンを離れていたら、こうして戻ってこられなかったはずだ」

 モウリーニョとヴェンゲルの対立は、モウリーニョが前回チェルシーを率いていた時(04-07年)からの因縁だ。カネでスター選手を買い漁る金満チェルシーを皮肉ったヴェンゲルを、モウリーニョは「悪趣味な覗き魔」と罵った。

 2人が相容れないのは、性質が真逆だからだろう。

 ヴェンゲルは内向的で物静か、思慮深い人だ。だからこそ、名古屋グランパスで成功を収め、日本人に愛された。

 モウリーニョは、快活な自信家だ。歯に衣着せぬ物言いで、論争を厭わない。あえて物議を醸したりもする。

 ただし、今回の発言をヴェンゲルに対する人格攻撃と結論付けるのは早計だ。とかく悪者扱いされるモウリーニョだが、彼の名誉のために弁明すれば、ヴェンゲルを酷く言うのは、先制“口撃”を受けたときだけ、しかもその人間性を否定する悪口雑言などではない。

 実際、今回の言い争いも、「失敗を恐れている」というヴェンゲル発言を受けてのものだ。さらに、注意深く耳を傾ければ、モウリーニョの言葉はアーセナルというクラブ全体に向けられた“陽動作戦”だという真相が見えてくるだろう。

 気に入らないことがあれば、それを大っぴらに口にするのがアーセナルファンの習性だ。そして私の知る限りでは、ヴェンゲルに不満を持つサポーターは少なくない。モウリーニョは、「失敗のスペシャリスト」、「8年間無冠」という“パンチ”を繰り出すことで、アーセナル側を疑心暗鬼に陥らせようとしたのだ。例えば、メスト・エジルがふと、こう思っても不思議はない。トロフィーひとつも獲れないチームで、自分はなにをしているのか、と。

 深く考えを巡らす策士、モウリーニョの面目が躍如としている。

【記者】
Dan LEVENE|Fulham Chronicle
ダン・レビーン/フルアム・クロニクル
チェルシーのお膝元、ロンドン・フルアム地区で編集・発行されている正真正銘の地元紙『フルアム・クロニクル』のチェルシー番。親子三代に渡る熱狂的なチェルシーファンという筋金入りで、厳しさのなかにも愛ある筆致が好評だ。

【翻訳】
松澤浩三
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