現役イタリア人監督が読み解く「W杯の勝負の綾」 イングランド対イタリア

2014年06月16日 ロベルト・ロッシ

プランデッリのコンセプトは狙い通りの形で。

2列目の左サイドに入ったルーニー(白)は攻守に精彩がなく、イングランドにはこれが誤算だった。 (C) Getty Images

【グループD イングランド 1-2 イタリア
 
 ポゼッションで主導権を握って自分たちのリズムで試合を運ぼうとするイタリア、素早い縦の展開によるスピードに乗ったカウンターアタックに活路を見出そうとするイングランド。それぞれが持ち味を発揮した、見どころの多いスペクタクルな試合だった。
 
 違いを作り出したのは、フィニッシュの精度。イタリアは中盤の攻防で優位に立ったとはいえ、相手を押し込んで試合を支配したわけではない。しかし、効果的なサイド攻撃から作り出したチャンスの多くを決定機、そしてゴールに結びつけた。
 
 一方のイングランドは、狙い通りにカウンターから何度かいい形を作り出しながら、枠を捉えられなかった。ウェイン・ルーニー、ダニエル・スターリッジが決めるべきチャンスを決めていれば、少なくともドローに持ち込むことは可能だった。
 
 イタリアが主導権を握った最大の要因は、イングランドの「前4人」の守備参加が限定的で、とくにサイドの守備でスペースと数的優位を与えてくれたこと。とりわけイングランドの左サイドはルーニーの戻りが緩慢で、アントニオ・カンドレーバとマッテオ・ダルミアンが、レイトン・ベインズに対して2対1の数的優位を作り出し、深いゾーンをえぐることが可能だった。
 
 マリオ・バロテッリの決勝ゴールも、このサイド(イタリアから見ると右)を崩してカンドレーバが質の高いクロスを折り返したところから生まれている。
 
 テクニカルなMF陣のクオリティーを活かしてポゼッションで主導権を握り攻勢に立つという、チェーザレ・プランデッリ監督就任以来のチームコンセプトは、狙い通りの形でピッチ上に表現されていたと言える。
 
 イングランドは「6人で守って4人で攻める」攻守分業型のスタイルで、スターリッジ、ルーニー、ラヒーム・スターリング、ダニエル・ウェルベックというアタッカー陣のスピードを活かしたカウンターで違いを作り出そうと試みた。しかし、攻撃ではイタリアの組織的な守備の前に思ったほど多くのチャンスを作れず、しかも作り出したチャンスはフィニッシュの精度を欠いて一度しかものにできなかった。
 
 その一方で、守備ではこの4人が十分に働かないために生まれた穴をイタリアに衝かれる形になったのだから、最終的な帳尻が合ったとは言いがたい。
 
 もうひとつの違いはセットプレー。イタリアの先制ゴールはコーナーキックからのサインプレー。アンドレア・ピルロがスルーしてクラウディオ・マルキージオがフリーでミドルシュートを撃つ形は、あらかじめ決められたパターンのひとつだ。後半には、ピルロが直接FKからクロスバーを叩くシュートも放っている。
 
 一方のイングランドは、9回のコーナーキックを得ながら一度も効果的な形で活かすことができずに終わった。

次ページトリプル・レジスタで中盤のポゼッションは安定。

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