【現地発】シャルケ躍進の立役者は究極の仕事人間! ファンの心を掴んだ智将テデスコの豊富な魅力

2018年04月20日 中野吉之伴

分析力に長け、5か国語を操って人心を掌握

内容的にも差を見せつけてドルトムントを下したシャルケ。18日に行なわれたDFBカップ準決勝ではフランクフルトに敗れて今シーズンでのタイトル獲得はならなかったが、テデスコ監督が作り上げたチームへの今後の期待感は高まる一方だ。 (C) Getty Images

 試合終了の笛が鳴ると、シャルケのドメニコ・テデスコ監督はグラウンドに跪き、芝にキスをした。
 
 全精力を使い果たし、ドルトムントとの「レヴィア・ダービー」で14年以来となる勝利をもぎ取った。これで2位の座をしっかりと守ると同時に、来シーズンのチャンピオンズ・リーグ(CL)出場権獲得をほぼ確実なものとした。
 今や、シャルケ・ファンでテデスコの手腕を疑う者は、ひとりもいない。
 
 最初から信頼されていたわけではない。プロコーチのライセンス資格を歴代最高成績で取得したといっても、ブンデスリーガでの実績は、2部リーグのエルツゲビルゲ・アウエで11試合指揮を執っただけ。当初は、期待よりも疑念の方がどうしても強かった。
 
 また開幕前には、チームの中心で顔だった元ドイツ代表DFベネディクト・ヘーベデスをキャプテンから外すという抜本的な変革を行使。長年、クラブに尽くしてきた功労者への扱いとしてあまりに不当と、少なからずファンからの反感を買った。出場機会をなくしたヘーベデスはその後、ユベントスへ移籍している。
 
 だがテデスコは、自分のエゴでこうした決断をしたわけではない。全てはシャルケのためだった。どうすれば良くなるのか、どうすれば勝てるようになるのか?……そのことに全力で取り組み続けている。
 
 クラブハウスの監督室には、朝早くから夜遅くまで明かりが灯っているという。そして、クラブから家に帰っても対戦相手のビデオ分析を入念に行ない、次の試合に向けて可能な限り完璧なシミュレートをし、練習で徹底的に落とし込む。
 
 ドルトムント戦では、3試合出場機会のなかったウクライナ代表コノプリャンカをスタメン起用。今シーズンは安定感を欠く相手SBのウカシュ・ピシュチェクとマルセル・シュメルツァーを執拗に狙い、見事なプレスから、そのコノプリャンカが貴重な先制ゴールを決めた。
 
 狙いを明確にし、チームとして機能するために何が必要かを見極める。今ではその仕事ぶりに、選手もスタッフもファンも、絶大な信頼を寄せているのだ。
 
 巷では、「ラップトップ監督」と呼ばれ、理論やデータだけの監督だと揶揄されることもある。だが、乾いた言葉だけで人の心を掴むことはできない。テデスコには、選手の心を燃えさせる熱さがある。力が、勇気が、情熱が込められた言葉を、ダイレクトに届けることができる。
 
 イタリア系ドイツ人のテデスコは、ドイツ語、イタリア語の他、英語、フランス語、スペイン語にも精通しており、そのため、ほぼ全選手の母国語でコミュニケーションを取ることができる点も素晴らしい。

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