【小宮良之の日本サッカー兵法書】“模範とすべき”イニエスタのバルサでの雄姿を目に焼き付けよ!

2018年04月18日 小宮良之

まるで漫画の世界のヒーローのよう

稀代の“魔法使い”によってピッチ上は夢空間と化した。「ショー」の回数も残りわずかとなったが、イニエスタは最後に何を我々に披露してくれるか。 (C) Getty Images

 4月21日(現地時間)に行なわれるコパ・デル・レイ決勝(対セビージャ)の後、アンドレス・イニエスタがバルセロナ退団を発表することが決定的になった。
 
 2002年12月21日のマジョルカ戦でトップデビューを果たして以降、イニエスタは16シーズンをバルサで過ごしてきた。そのあいだに、チャンピオンズ・リーグ(CL)4回、リーガ・エスパニョーラ8回、クラブワールドカップ3回と、国内外の多くのタイトル獲得に貢献した。
 
 またスペイン代表としても、2010年南アフリカ・ワールドカップを制し、2008、12年とEUROを連覇するなど、サッカーの歴史を塗り替えた彼の記録は燦然と輝く。

 しかし、「記録」だけでは語り切れない選手と言えるだろう。
 
 7、8人の選手に囲まれても全く動じない。わずかな間合いだけで、マーカーを翻弄する。その姿は、まるで漫画の世界のヒーローのようだった。
 
「自分に人が集まれば、周りはそれだけ自由になる。それがフットボールだから。シンプルなことだよ」
 
 イニエスタはさらりとそう言ってのけたが、それは「魔法」に近かった。
 
 ボールポゼッションというと、洗練さや美しさと同時に、ひ弱さという印象もそこには含まれる。しかし、イニエスタに「脆さ」は感じられなかった。ボールを握り、運ぶ強度。そこには、殺気立つものがあった。
 
「イニエスタが迫ってくると、思わずこちらが怯んでしまう。ボールを運ぶ姿に、迫力があるんだよ」
 
 彼と対戦したDFのなかには、このように語った選手もいる。
 
 筆者は、イニエスタが16歳の時、彼がバルサBでプレーする姿をしばしば見に出かけている。少年には、その頃から圧倒的な存在感があった。ボールを受け、運び、弾く。そのたび、プレーが広がり、巨大な渦になっていった。相手の守備がずれ、味方の攻撃が活性化した。
 
「周りが輝けば、自分も輝けるんだ」
 
 当時、イニエスタがそう言って笑っていたのを覚えている。とにかく、ボールを蹴るのが楽しくて仕方がないという様子だった。

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