ミシャの理想に札幌のリアリズム――コンサ躍進を予感させる融合現象はなぜ起きた?

2018年04月09日 斉藤宏則

ミシャスタイルをベースに適度な安全策をとる戦いぶり。

今季から札幌を率いるペトロヴィッチ監督。果たして、チームをさらなる躍進に導けるか。写真:川本学

[J1リーグ6節]札幌3-0名古屋/4月7日/札幌ドーム
 
 今季は開幕からルヴァンカップを含め、公式戦未勝利が5試合続いた。攻撃的なパスサッカーを標榜する"ミシャ"ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督を迎えた新生・札幌の船出は、決して良好とは言えなかった。しかし、4節で長崎を下して初白星を挙げると、続く5節は鹿島を相手にハイパフォーマンスを発揮してスコアレスドローで切り抜け、そして今節は名古屋を相手にホームで3-0のスコアで快勝してみせた。シーズン開幕当初の躓きを経て、今まさに上り調子にある札幌だが、状態が上向いたその要因はなんなのか。そこに目を向けてみたい。

 
 考えられるのはパスサッカーへのチャレンジ精神と、勝点確保のための堅実さとがバランスよく保たれ、そこにインテンシティ(プレー強度)がしっかりと共存している部分だろう。
 
 開幕当初はペトロヴィッチ監督も新たなスタイルを強く要求したし、選手たちも新指揮官が求めるパスサッカーを忠実に演じようとする意識が強く、多少無理をしてでも自陣から細かくパスをつなごうとしてはミスからピンチを招く場面が目立った。相手ゴール前において数的同数で、クロスを上げればチャンスになりそうな局面でも、ショートパスを選択するシーンもあった。守備に目を向けても、キレイな形でボールを奪って良い攻撃に移りたいからなのか、対人プレーにハードさや泥臭さが不足していた。ざっくりと言えばプレーが軽く、あっさりと簡単にフィニッシュに持ち込まれてしまっていた感がある。それゆえ、白星が遠かった。
 
 そうしたなかで、ターニングポイントとなったのが、前述の長崎戦だった。終了間際にチャナティップが泥臭いゴールを奪って今季初勝利を果たすと、国際Aマッチウィークによるインターバルを経ての鹿島戦から一気にパフォーマンスが高まったのだ。
 
 具体的に大きく変わった点を挙げるとすれば、鹿島戦では自陣から細かくパスをつないで攻めるミシャスタイルをベースとしながらも、シンプルに前線に蹴るセーフティさも適度に織り交ぜられていたのだ。
 
「相手が強い鹿島だったし、アウェーということもあってシンプルなプレー選択が自然と増えたのだと思う」と言ったのは韓国人GKのク・ソンユンだ。結果的に、安易なパスミスで何度も帰陣するような体力消耗も抑制され、それに伴って高いインテンシティによるハードな守備で相手の攻撃を封じられるようになった。激しいボディコンタクトによるボール奪取は昨季までの札幌の長所。ミシャ戦術と、札幌が元来持っている本質的なプレースタイルとが好バランスで発揮され、内容面で鹿島を圧倒したのである。そこで得た成功体験もパフォーマンス向上につながっているのだろう。そして名古屋戦の完勝へとつながっていく。鹿島戦は序盤戦の大きなハイライトと言えるはずだ。

次ページエンターテイメント性とリアリズムが共存するスタイルは非常に合理的だ。

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