【松本】J通算500試合出場を通過点に、田中隼磨が走り続ける理由

2018年03月16日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

驚くべきは、それがアディショナルタイムでの出来事だったことだ

プロ18年目の今季も精力的なプレースタイルは変わらず。山雅の“魂”は、タイムアップの笛が鳴るまで全力疾走を貫く。写真:徳原隆元

 自陣のペナルティエリア内でボールをキープしたパウリーニョが、自ら持ち運んでカウンターを発動する。パウリーニョとほぼ同じラインで逆サイドにいた田中隼磨も、相手ゴールに向かって走り出す。
 
 相手陣内に入ったパウリーニョが左サイドの前田大然にパス。前田は中にいる工藤浩平につなぐ。その間に右サイドでは背番号3がフリーになっていたが、工藤は前方にいる永井龍へ浮き球のパスを送る。
 
 この試みは失敗し、攻守が切り替わる。田中は攻め上がった時と同じ勢いで、敵のボールホルダーに迫りよる。そこで奪うのが難しいと判断したのだろう。自分の持ち場へと進路を変える。もちろん、ダッシュで帰陣だ。
 
 そしてセットして守ろうとした瞬間、目の前の敵にボールが届くと、田中はすかさず詰めて、相手にバックパスを選択させる。
 
 ウイングバックとして、精力的な上下動は別段珍しくはない。だが驚くべきは、一連のアップダウンは、90分を過ぎたアディショナルタイムでの出来事だったのだ。
 
 せっかく攻め上がったのに、フリーだったのに、パスがこない。逆にカウンターを食らうなか、急いで戻らなくても、35歳のチーム最年長なら大目に見てもらえたかもしれない。だが、田中はそんな横柄な振る舞いはしない。すぐに頭を切り替えて、目の前のやるべきことを愚直に遂行した。
 1-1で引き分けた2節・アウェー新潟戦のことだ。先制される苦しい展開だったが、81分、セルジーニョが同点ゴールをねじ込む。正確なクロスでお膳立てしたのは田中だ。ただ、勝点1をもたらす貴重なアシストより、あの時間帯に見せたアグレッシブなフリーランのほうが、はるかに価値のあるものに思えた。
 
「俺は、あれをやらないと俺じゃないと思う。時間帯とか関係ない。最初から最後までああいうプレーを見せることで、もしかしたら1点を防げるかもしれないし、もしかしたら1点取れるかもしれない。それでチームが勝てるかもしれない。
 
 俺はそのために、プロになってからの10何年間、ずっとやってきている。ああいうプレーがなくなったら、サッカーを辞める時だと思っている。だから、俺の中ではスタンダード。身体に染みついている」

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